銭形平次捕物控
本文約10,800字 ・ 読了時間 約22分
あらすじ(AIが作成しました)
江戸の街で罪のない人々を次々と殺害し懐中物を奪う辻斬が横行し、幕府の老臣らも憂慮する事態となる。町方の御用聞きである銭形平次と子分の八五郎は、この凶行を止めるべく調査に乗り出す。平次は卓越した洞察力と勘を頼りに犯人の正体を追い詰め、夜の江戸を舞台に激しい捕物劇を繰り広げる。町人や旗本の身分を越えた複雑な人間模様が交錯する中、平次は強大な悪に立ち向かい、静かな矜持を持って事件の解決に挑む物語である。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
一
「八、厄介なことになったぜ」
銭形の平次は八丁堀の組屋敷から帰って来ると、鼻の下を長くして待っている八五郎に、いきなりこんなことを言うのです。
「何かお小言ですかえ、親分」
「それならいいが、笹野の旦那が折入っての頼みというのは、――近ごろ御府内を荒らし廻る辻斬を捉えるか、せめて正体を突き止めろというのだ」
「へッ、ヘエ――」
ガラッ八の八五郎さすがに胆を潰したものか、固唾が喉に引っ掛って、二度に感嘆しました。
「笹野の旦那はこうおっしゃるのだよ――この夏あたりから噂は聴いていたが、三日に一人、五日に二人罪のない人間がお膝元の江戸で、人参牛蒡のように斬られるのは捨ておき難い。いずれ腕自慢が高じての悪業であろうが、近頃は斬った死体の懐中物まで抜くというではないか。このうえ知らぬ顔をしては、御政道の瑕瑾と相成る。御家中若年寄方にもことごとく御心痛で、町方へ強っての御言葉があった――ということだ」
「ヘエ――大したことになりましたね、親分」
それは全く大したことでした。
この夏あたりから始まった辻斬騒ぎ、最初は新刀の切れ味を試す心算でやったのでしょうが、二度三度と重なると、次第に悪魔的な興味が高じて、神田一円に九段から両国まで荒らし廻る辻斬の狂暴さは、さすがに幕府の老臣方の目にも余ったのです。
旗本の次男三男、諸藩のお留守居、腕に覚えの浪人者など、辻斬退治に出かける向きもありましたが、相手はそれに輪をかけた凄腕で、いずれも一刀両断にしてやられるか、運よくて、這々の体で逃げ帰るのが関の山でした。
秋に入ると、辻斬の狂暴さは一段と拍車をかけました。最初は武家ばかり狙いましたが、後には百姓町人の見境がなくなり、ついには斬った死骸の懐中を捜って、紙入、胴巻を抜き取るような浅ましい所業をするようになったのです。
「どうだ八、辻斬退治をする気はないか。こいつは十手捕縄の晴れだぜ。腕自慢のお武家が門並持て余した相手だ」
平次も緊張しきっております。