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TORENDIA

音波の殺人

本文約15,300字 ・ 読了時間 約31分

あらすじ(AIが作成しました)

人気歌手の長島若菜が自宅で射殺される事件が発生し、社会部長の千種十次郎と外交記者の早坂勇が取材に奔走する。現場にはピアノ伴奏者の藤井薫や音楽ファンの岡崎敬之助らが居合わせていた。若菜の元夫である音響学者の長島長太郎博士が事件に関与を疑われるなか、長島は自身の発明した機械を用いた「音波による殺人」を主張する。真相解明に執念を燃やす記者たちは、取材を通じて事件の背後に隠された人間関係と恐るべき企てに迫っていく。

野村胡堂

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流行歌手の死

夜中の十二時――電気時計の針は音もなく翌る日の最初の時を指すと、社会部長の千種十次郎は、最後の原稿を一と纏めにして、ポンと統一部の助手の机に投りました。

「さア、これでお了いだ」

千種はガードの熱いおでんと、中野のアパートの温いベッドと――何方にしようかと考えて居りました。まる十二時間の労働で、心も身体もボロ切れのように疲れ果てて、此上は、地球そのものを爆弾にして、口火を点ずるような大事件がもちあがっても、「畜生ッ一行も書いてやるもんか」と言った自棄な気持になるのでした。

「千種さん電話ですよ」

給仕の声と電話の鈴の音が、千種十次郎の横着な夢想を破りました。

「何処だ――」

「早坂さんの声ですよ、――部長さんが居ないかっ――て」

「勇奴、又銀座で飲んでいるんだろう、――帰ったことにして置け」

「駄目ですよ、向うへ千種さんの声が聞えるんですもの」

給仕は送話器を掌で塞いで、酸ぱい顔をして見せました。

「仕様が無いなア、――又軍用金の徴発だろう」

千種十次郎は卓上電話のコードを手繰って――こいつは用度掛から厳重に禁止されていることですが、――卓の上に足を載せたまま、受話器を取上げました。

「――大将――、大変な事が――」

外交記者中の辣腕、早坂勇の声が、切れ切れに聴えます。

「何をあわてるんだ、勇、新聞記者に大変な事なんかあるものか、――尤も往来で借金取りに逢えば別だが」

「そんな馬鹿な事じゃ無い、長島若菜が殺されたんだ」

「何? あの流行歌手の若菜が!」

千種十次郎は噛んで居たピースを、糊壺の中へ捻じ込むと卓の上の足を床におろして、一生懸命卓上電話に噛り付きました。ニュースを呪っていた、ツイ今しがたの心持などは綺麗に忘れて、火のような新聞記者意識が、疲労も倦怠も焼き尽すように燃え上ったのでした。

「自分の宅で、拳銃で撃たれて死んで居るんだ、――犯罪はたった一時間前に行われたばかり」

「君は今何処に居るんだ」

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