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TORENDIA

古銭の謎

本文約12,800字 ・ 読了時間 約26分

あらすじ(AIが作成しました)

古銭蒐集家を名乗る南市太郎という老人と、行方不明となった大富豪・春山昇の執事・左京路之助が出会う。春山が残した古銭と銀の鍵が、屋敷内に隠された秘密や事件の真相を解き明かす鍵となり、名探偵が相続争いの裏に隠された犯行を暴き出す。老人たちが財産争いに没頭する中、当事者である若い男女の絆を再確認させ、探偵は飄々と立ち去る。

野村胡堂

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一

「別ぴんさん勘定だよ、……こんなに多勢居る娘さんが、一人も寄り付かないのは驚いたネ、せめて、勘定だけは取ってくれよ」

とてもいい心持そう。珍々亭のスタンド前、一番人目に付こうという場所を一人占めにして、一人の老紳士が太平楽を極めて居ります。

「ヘエ百八十五円頂戴いたします」

そういうのは、十七八の女給、

「百八十五円? それは安い、八百五十円の間違いじゃあるまいネ」

胡麻塩になった山羊髭を喰い反らした人の好さ相な顔を、女給の鼻の先へヌッと突出します。

「間違いなんかいたしません、百八十五円ン」

事面倒と見て、切口上にまくし立てる女給の前へ、かくしから掴み出した、金銀銅銭をザラリと撒いて、

「サア、この中から好きな丈け取ってくれ」

「アッ」

女給は驚いたわけ、その一と掴みの金銀銅銭というのは、悉く古銭ばかり、小判、二分金、一朱銀、天保銭から、文久銭、駒曳銭もあれば、永楽銭もあるという有様、選りわける迄もなく、今日通用する金は一枚も交っては居ません。

「アラ御冗談なすってはいけませんよ。みんな、昔のおあしばかりじゃありませんか」

相手が少々甘いと見たか、若い女給さんなかなか負けません。

「これじゃいけないかネ、困った事に今日は金が無いんだ、尤も金が無いと言ったって無銭飲食じゃないよ、この通り、巡礼お鶴じゃないが小判というものはたんと持って居る……」

「いけませんよ、冗談をなすっちゃ、そうでなくてさえ、時々西洋の銀貨や、支那の銀貨を掴まされて、お帳場から叱られるんです。小判なんかで頂いたら、どんな事になるか判ったものじゃありません」

「相すまん、誠に私が悪かった。が、聞いてくれ、斯ういうわけだ。私は古銭を集めるのが道楽でな、家を出る時は、充分金を持って出た筈なんだが、途中二三ヶ所で古銭に引っかかって、とうとうこの通り。私のガマ口には、明治以後のおあしは一銭も無くなってしまった、ハッハッハッ驚いたか」

卓の古銭の上へ、空っぽのガマ口を投り出してカラカラと笑い出しました。

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