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TORENDIA

眠り人形

本文約7,700字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

正月の銀座で、古道具屋の露店に身を寄せ生活を支える母と娘よし子がいる。十年ぶりに帰国後、何者かに連れ去られた父親を待ちわびる母子は、露店で人形を売る日々を送っていた。そこへ偶然通りかかった紳士とその姪加奈子が人形を買い上げる。人形の仕掛けから発見された密書がきっかけとなり、警察の捜査によって悪漢の巣窟に監禁されていた父親が救出される。母子と父親は再会を果たし、平穏な暮らしを取り戻す。

野村胡堂

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一

「お母様、泣いていらっしゃるの?」

よし子は下からのぞくように、母親の顔を見上げました。

「いえ、泣きはしません。なんにも泣くようなことはないじゃありませんか」

「でも、お父様の形見が一つずつなくなってゆくのが心細いって、昨日叔父様へ泣いておっしゃったじゃありませんか」

「この子はまあ」

母親は顔をそむけて、そっと涙をふきました。お正月の銀座はまだ宵の口ですが、身を切るような寒い風が街の石畳の上に、後から後からと砂ほこりの渦を巻いて、悲しい事がなくとも、つい涙のしみ出るような嫌な晩でした。

三十五六とも見える、やつれ果ててはおりますが、なんとなく上品な婦人と、とってようやく十一になる、可愛らしい娘のよし子とは、街路樹の蔭にうずくまって、あかりをさけるように、こうしめっぽい話をしております。

その前には毛氈が一枚、所々破けたままの上へ、火鉢、小机、置物、目覚し時計、膳、椀、皿、古茶器、装身具、文具など、いずれも中古から大古まで、中には化けそうなのもまじえて、古道具の貧しい店をひろげ、五十位の人の好さそうな中老人が、ふところ手をしたまま、えりまきにあごを埋めて、ポツネンと坐っておりました。

「そんな愚痴は言わないことにしようよ、せっかく足をとめた客も、お前さん方の泣き言を聞くと、驚いて逃げだすじゃないか、私はこの通り口銭無しでお前さん方の品をさばいてやるんだ、この上、愚痴を聞かされちゃかなわない」

「どうもすみません、つい愚痴っぽくなって、厭な事をお耳にいれます、ただみたように二階を貸して頂いた上、こう品物をさばいて頂いて、本当にお礼の申しようもありません」

「イヤ、そう改まって礼を云われるときまりが悪い。ところで今晩はこの通り寒くもあるし、客があるか無いかわからない、もしお前さん方の品が売れなかったら、失礼だが明日のお米の代は私が建てかえて上げよう、ボツボツ帰る支度をなすったらどうだね」

古道具屋のおやじさんは、ひざかけの古けっとの下から、うこん木綿の財布をとりだして、チャラチャラ銅銭の音をさせております。

丁度その時でした。古道具屋の店先に立ちどまった二人の人影、

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