TRENDIA CLASSIC

判官三郎の正体

野村胡堂

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「泥棒の肩を持つのは穏かではないな」

唐船男爵は、心持その上品な顔をひそめて、やや胡麻塩になりかけた髭に、葉巻の煙を這わせました。

日曜の午後二時、男爵邸の小客間に集った青年達は、男爵を中心に、無駄話の花を咲かせて、長閑な春の日の午後を過して居ります。

「肩を持つという訳ではありませんが、あの『判官三郎』と名乗る泥棒ばかりは憎めませんよ。第一あれは驚くべきスポーツマンで……」

というのは、会社員の黒津武、運動家らしいキリリとした身体、勤柄で真面目な紺の背広は着て居りますが、上着一枚脱げば、何時でもラケットを握る用意が出来て居ようという、気のきいた男前です。

「というと、君自身が覘われた事でもありそうだが」

これは宮尾敬一郎という、金持の坊ちゃんです。映画とスポーツと音楽の通で知らないものは、月給を取る方法と金を儲ける方法だけといった、典型的の有閑青年。

「僕じゃない、僕の伯父がやられたんだ」

「君の伯父さん? ……成る程、君の伯父さんというと、富豪の筒井氏だネ、何んでも避雷針を伝わって空気抜から入って、抵当に預った曲玉や管玉や、素晴らしい古代の宝玉を苦もなく奪われたというではないか」

「それだよ、伯父の悪口をいっちゃすまないが、世間から『地獄の筒井』といわれる位だから、伯父のやり口も充分悪かった」

「あの古代の宝玉というのは、有名な蒐集家の遺族から預って、金を返す期限が二三日遅れたというので、涙を流して頼みこむ預け主へ、どうしても返さずに居た品物だというじゃないか」

「その通り、残念乍ら僕も伯父の弁護だけは出来ないよ、義賊気取りの判官三郎に覘われたのも無理は無いさ」

「マア黒津さん、そんなに伯父さんの悪口を仰しゃるものじゃありませんワ」

後ろの方から、洗練された美しい声、振り返って見ると、次の間に通ずる扉を背にして、オパール色の洋服を着た、目の覚めるような美しい娘が立って居ります。

「オ、栄子さん、丁度いいところへ」

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