【第一回】
一
その晩、出雲屋の小梅の寮は、ハチ切れそうな騒ぎでした。
出雲屋の主人、岩太郎が、野幇間の奇月の仲人で、新たにお滝という召使を雇い入れ、その御披露やらお祝やらを兼ねて、通人出雲屋岩太郎が、日頃昵近にして居る友達や、お取巻の面々を、小梅の寮に招き、一刻千金と言われる春の宵を、呑んで騒いで、頃合を見計って船と駕籠で送り返そうという寸法だったのです。
多寡が召使を一人雇入れるのにと思う人があるかも知れませんが、これは毎年三月になると交代する、一季半季の召使ではなく、家付の女房が死んでからは、金と時間とが有り余る出雲屋が、江戸何大通の番付尻を汚す手前、取換引替え蓄えた妾の一人で、既に神田鎌倉町の本宅には、お峰という美しい妾があるにも拘らず、向島の寮にはもう一人の妾、お滝という十七になったばかりの、お人形のように可愛らしい妾を入れることになったので、今夜はその披露の宴を開こうという、世にも人にも憚らぬ、不思議な催しだったのです。
客は仲人役の奇月、恐ろしく下手な雑俳と、妾の世話と、剃り丸めた自分の頭を叩いて、変な音頭を唄う外には取柄の無い五十男。それに岩太郎の碁敵で、篠崎小平という四十年配の浪人者。出雲屋の孫店で、日頃恩顧を蒙っている田屋甚左衛門。それに本店に居る先輩の妾お峰と、手代の才六という三十男。これだけの人数が、月にも雪にも花にも宜しという、三宜楼の二階、折から三月十六日の朧ろ月を眺めて、まことに散々の狂態でした。
召使お滝――新たに雇入れられた妾のお滝は取ってようやく十七歳、拵え立ての粉の姉様人形に、生命を吹込んだような清らかな娘でした。家は鎌倉町の本店裏の路地に挟まれた駄菓子屋。母親一人の細い商で、資本に困って居るところを、野幇間の奇月が見付け、結構な株に投資する積りで少しばかりの金を貸しつけ、利に利を積らせて、とうとう娘を抵当流れに奪い取り、売物に花を飾らせて、出雲屋の岩太郎に、第三号の妾として人身御供に上げたのでした。