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TORENDIA

銭形平次捕物控

本文約25,700字 ・ 読了時間 約52分

あらすじ(AIが作成しました)

大夕立に見舞われた神田祭の宵宮で、踊りの師匠とお組という二人の女が名古屋の若旦那をめぐり激しく揉み合う。その後、舞台裏で恐ろしい事件が発生する。町方の八五郎から報告を受けた銭形平次は、現場周辺の状況や女たちの不自然な動きを分析し、犯人の緻密な工作と正体を見破るべく捜査を開始する。江戸の雷鳴が轟く中、平次は複雑な人間関係と事件の核心に迫り、捕縛に向けて知略を尽くす。

野村胡堂

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【第一回】

一

江戸八百八町が、たった四半刻のうちに洗い流されるのではあるまいか――と思うほどの大夕立でした。

「わッ、たまらねえ、何処かこう小鬢のあたりが焦げちゃ居ませんか、見て下さいよ」

一陣の腥い風と一緒に、飛沫をあげて八五郎が飛込んで来たのです。

「あッ、待ちなよ、そのなりで家の中へ入られちゃたまらない――大丈夫、鬢の毛も顎の先も別条はねえ、鳴神だって見境があらァな、お前なんかに落ちてやるものか」

平次は乾いた手拭を持って来て、ザッと八五郎の身体を拭かせ、お静が持って来た単衣と、手早く着換えをさせるのでした。

全く焦げ付きそうな大雷鳴でした。そうしているうちにも、縦横に街々を断ち割る稲光り、後から/\と、雷鳴の波状攻撃は、あらゆる地上の物を粉々に打ち碎いて、大地の底に叩き込むような凄まじさでした。

「驚きましたよ、あっしはもうやられるものと思い込んで、四つん這いになって此処へ辿り着くのが精一杯――どうも腹の締りが変な気持ですが、臍が何うかなりゃしませんかしら――」

「間抜けだからな、自分の臍を覗いて見る格好なんてものは、色気のある図じゃないぜ、第一お前の出臍なんか抜いたって、使い物にならないとよ、味噌が利き過ぎて居るから」

掛け合い話の馬鹿々々しさに、お静はお勝手へ逃げ込んで、腹を抱えて笑いを殺して居ます。

いいあんばいに雷鳴も遠退いて、ブチまけるような雨だけが、未練がましく町の屋並を掃いて去るのでした。

「それにしても大変なことでしたね、御存じの通り、あっしは雷鳴様は嫌いでしょう」

「―雷鳴は鳴る時にだけ様をつけ―とね、雷鳴を好きだという旋毛曲りも少いが、お前のように、四つん這いになって逃出すのも滅多にないよ、あの格好を新造衆に見せたかったな」

「散々見られましたよ、何しろ明日の神田祭だ、宵宮の今晩から、華々しくやる積りの踊り舞台にポツリ/\と降って来た夕立の走りを避けて居ると、あの江戸開府以来という大雷鳴でしょう」

「江戸開府以来の雷鳴という奴があるかえ」

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