銭形平次捕物控
本文約11,600字 ・ 読了時間 約24分
あらすじ(AIが作成しました)
日本橋の豪商・沢屋が二千両の借金を巡り危機に陥る。返済できなければ店を畳むという窮地の中、娘のお琴は日本橋の欄干で逆立ちをして渡るという賭けに出る。当日、好奇の目が日本橋に集まる一方で、沢屋の主人・三郎兵衛が自宅で何者かに刺殺される。平次は、現場の証拠と犯人の履物への執着から、強欲な金貸し・浅田屋治平の犯行を暴き、大店乗っ取りの陰謀と偽証文の事実を明らかにしていく。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一
「親分、たまらねえ事があるんで、これから日本橋まで出かけますよ、いっしょに行って見ちゃ何うです」
巳の刻近い、真昼の日を浴びて、八五郎はお座敷を覗いて顎を撫でるのです。四月のある日、坐っていると、ツイ居睡りに誘われるような、美しい日和です。桜は散ったが苗売の声は響かず、この上もなく江戸はのんびりしておりました。
「頼むから日蔭にならないでおくれ、貧乏人の日なたぼっこだ、――ところでお前は日本橋まで何をしに行くんだ、気のきいた晒し物でも出たのかえ」
銭形平次は気のない顔を振り向けました。時鳥にも鰹にもないが、逝く春を惜しむ、江戸の風物は何んとなくうっとりします。
「冗談じゃありません、生臭坊主や心中の片割れを見に行きゃしません、今日の午の刻に、日本橋の上に、神武以来の珍しい見世物があるんですぜ」
「神武以来は大きいな、尤もお前に言わせると、隣の猫の子が、三毛を産んでも、江戸開府以来だ」
「そんな下らない話じゃありませんよ、通り一丁目の沢屋三郎兵衛の娘のお琴が、今日と言う日の真昼に、逆立ちをして日本橋を渡ると言うので、高札場の前から、蔵屋敷の前へ湧き立つような騒ぎですよ、中には弁当持参で橋詰に頑張って、暗い内から動かないのもあります」
「呆れた奴らだ、その野次馬の中へ、思いっ切り水でもぶっかけてやりたい位のものだ」
平次は江戸っ子の呑気さと、その物見高さに驚きました。多寡が女の子が逆立ちする位のことに、大騒ぎをする方が何うかしております。
「ところがその娘は、お琴と言って、たった十七ですぜ、逆立ちをして日本橋を渡って、何ういうことになります。久米の仙人が河童だったら、どんな事になります」
八五郎の長広舌は、平次の思惑とは反対に、いとも面白く弁じ立てるのです。