銭形平次捕物控
本文約13,300字 ・ 読了時間 約27分
あらすじ(AIが作成しました)
橋場の質両替商伊豆屋の息子菊次郎が、隅田川で水死体として発見される。泳ぎが苦手なはずの菊次郎の不審な死に、許嫁のお夏は疑問を抱き、銭形平次に調査を依頼する。平次は聞き込みを通じ、菊次郎と懇意にしていた茶店の女お銀や、弟の徳三郎に疑惑の目を向ける。平次は菊次郎の殺害と五百両の強奪に関わる真相を究明するため、江戸の町を駆け巡る。平次が独自の視点で犯人の動機や事件のからくりを解き明かしていく姿を描く。
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一
八五郎の顔の広さ、足まめに江戸中を駆け廻って、いたるところから、珍奇なニュースを仕入れて来るのでした。
江戸の新聞は落首と悪刷りであったように、江戸の諜報機関は斯う言った早耳と井戸端会議と、そして年中どこかで開かれている、寄合い事であったのです。
「お早うございます。良い陽気になりましたね、親分」
八五郎といえども、腹がいっぱいで、でっかい紙入に、二つ三つ小粒が入っていると、こんな尋常の挨拶をすることもあります。
「たいそう機嫌が良いじゃないか、――お前の大変が飛び込まないと、――今日は大きな夕立でも来やしないかと、ツイ空模様を見る気になるよ」
「ヘッ、天下は静謐ですよ、――親分におかせられても御機嫌麗わしいようで」
「馬鹿野郎、御直参見てえな挨拶をしやがって」
「親分の縄張り内はろくな夫婦喧嘩もねえが、三輪の万七親分の縄張りには、昨日ちょいとしたことがあったそうで」
「チョイとしたこと――というと」
平次に取っては、八五郎の『大変』よりは、この『チョイとした事』の方に興味を惹かれるのです。
「橋場の金持の息子が、土左衛門になったんで、いっこうにつまらない話で」
「まだ桜が散ったばかりだぜ、――泳ぎには早いし、金持の息子が、身投げするのも変じゃないか」
平次はこの短い報告の中から、幾つかの腑に落ちない点を見出して居るのです。
「あっしも、変だと思ったから、昼過ぎに覗いて見ました。死んだ息子の親許の、橋場の伊豆屋ものぞいて見ましたがね――」
「待ってくれ、橋場の伊豆屋の伜が水死したというのか、そいつはお前、大した金持の子じゃないか」
その頃は江戸八百八町と言っても、人口にして百万に充たず、有名な物持や大町人や、筋の通った家柄は、御用聞の平次ならずとも大方諳んじていたのです。
橋場というところは、いちおう江戸の場末のようですが、吉原という不夜城を控え、向島と相対して、今戸から橋場へかけて、なかなかの繁昌であったことは想像に難くありません。
その橋場の中ほど、銭座寄りに、伊豆屋は質両替の組頭として、古い暖簾を掛けておりました。
「大した金持なんですってね、こちとらには付き合いはねえが」