戯曲体小説 真夏の夜の恋
本文約6,100字 ・ 読了時間 約13分
あらすじ(AIが作成しました)
山内病院の息子・滋と、薬局に勤める書生・文造は、共に歌劇女優の夢子を想う恋敵同士である。ある日、滋は文造に対し、以前交わした約束を破り、夢子と結婚することを決意したと打ち明ける。富裕な家柄という地位や金銭を利用することへの文造の非難に対し、滋はあくまで真剣な愛情を訴える。浅草を舞台に、二人の青年が夢子を巡って激しく感情をぶつけ合い、対立する様子を描く戯曲体小説である。
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人物
山内滋 山内博士の子息
松本文造 薬局の書生
黛夢子 歌劇女優
黛薫 夢子の妹 歌劇女優
滋の父 医学博士 浅草厩橋 山内病院の院長
滋の母
其の他浅草公園の俳優不良少年少女等数人及び病院の看護婦召使等
時 現代
所 浅草公園を中心とする区域
その一 薬局室
七月下旬の或る日の夕方、書生の松本文造と山内滋とが薬局の窓の所でこそ/\と話し合つて居る。二人とも十八九歳の少年で文造の方が一つぐらゐ年長に見える。滋は色白の髪の毛の濃い可愛らしい顔立ちであるが、服装や態度に不良少年らしい様子があり、話の間にも時々袂から敷島を出して吸つて居る。文造は何処かへ出かけようとする所らしく、袴を穿いて麦藁帽子と風呂敷包みとを傍のデスクの上に置いて居る。色の黒い、肩のいかつた、しかし正直らしい顔つきをした少年。
(文造)坊つちやん、話ツてどんな事ですか。今直ぐでなけりやいけないんでせうか。
(滋)あゝ、今直ぐ話したいことがあるんだよ。少し大事な話なんだ。
(文造)いやだなあ、そんな真面目な顔をなすつて、何だか気になるぢやありませんか。
(滋)だつて全く真面目なんだもの。
(文造)さう云はれると僕の方でも是非聞きたくなりますけれど、でももう五時過ぎですからね、そろ/\夜学へ行かなけりやなりません。
(滋)夜学? 夜学なんぞ少しぐらゐおくれたつていゝだらう。
(文造 むつとしたやうに)いゝえ駄目です。どうしても六時までに行かなけりや駄目です。あなたは学校がお休みだからいゝでせうけれど、僕はさうは行きません。
(滋)おい、おい、そんなに怒らなくつてもいゝよ。お前は怒りツぽいから嫌さ。
(文造)怒りやしませんが、僕は此の頃夜学の時間がある為めに生きて居られるやうなものなんです。それをあなたは知つて居らつしやる癖に、夜学なんぞどうでもいゝツて仰つしやるから、あんまり残酷だと思つたんです。
(滋)どうでもいゝツて云やあしないよ。まだ六時には間があるから、少しぐらゐ後れたつていゝだらうと思つたんだよ。悪かつたら僕があやまるよ。