TRENDIA CLASSIC
瀬戸内の小魚た
ち
壺井栄
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この一月の末に、足かけ四年ぶりに郷里の小豆島へ帰った。大して目的はなく、もしかしたら持病になりつつあるぜんそくが癒るかもしれないと聞かされての、急な思いつきだったのだが、帰ってみると顔を合せるほどの人がみんな聞く。
「どんなご用で。どうしに? いつまで?」
実はぜんそく云々ともいえず、墓参りに戻ってきたのですといっても、これまでがなにか用事にかこつけてしか帰っていないものだから、そんな信心者とも信じられない顔をされる。そこで思いつきを言ってみた。
「今生の思い出に、おいしい小魚をたべに帰ってきました」
宿屋さんはさっそく魚の鍋をととのえてくれた。メバル、チヌ、タナゴなど二つか三つ切りにした季節の小魚を、両手を廻したほどの大皿に山盛りしてある。もちろん野菜と一しょにぽん酢でたべる。身のはぜかえるほど新しい魚はいくら食べても飽きず、一座五人ともとうとうその夕食はご飯ぬきになった。おまけにさしみも煮魚もついているのだから、米つぶの入る余地があろうはずがない。たんのうして床についたものだが、横になってからも、まるで友だちの噂をするように魚の思い出話がつきない。
「この前きた時の鰯のおつくりもうまかったわね」
と私がいうと、
「そうそう。鯛のおさしみよりもあれのほうがうまかった」
と姉が応じる。その時はちょっとした席がもうけられていて、型どおりの料理が運ばれたのであったが、その料理以外に私のそばへそっと、舟型のかなり大きな皿が運ばれてきて、宿の女中さんは笑いながら、
「こんなの、なつかしいでしょう。よろしかったら」