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昭和十九年 ――五十首――
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この日頃 一
暁の寒き真闇に 別れたるかの下士官は、到りつらむか
雪ほのに見えて しづもる向ひ山。暗きに起きて、兵を発たしむ
健やかに征きてかへれと 告げて後、たち征きにしが、まだ暗き営庭
若くして 心真直に征きにける伍長一人を 心にたもつ
この日頃 二
きほひ来し学徒も 今はおちつきて、おのも しづけき兵となりゆく
近々と 山の残雪のさびしきに、夕方早く 雨となりたり
この日ごろ。深く身に沁む戦ひの夢に 目ざめつ。しづけき眠り
敵、まあしやるに上陸す
つばらかに告ぐる戦果を きゝにけり。こゝに死にゆく兵らを われ知る
若きらが たち征きて後 絶えゐしが、まさに はげしきたゝかひに入る
洋なかの島に とよもし来たる讐 つくして来よと 切にし思ふ
俤に顕ちて 消えずも。はるかなる若き兵士らは 死なしめゝやも
さ夜ふかく 心しづめて思ふなり。一人々々 みなよく戦はむ
兵とある自覚を 深くおのがじしもてとさとして、たかぶり来たる
汝らが身は 公びとの他あらめや 深くさとして、心しづめ居り
宵早く 道の残雪の凍て来るに、堪へがたく立ちて 兵をはげます
族びとの深き思ひを 負ふ身なり。ますら雄ごころ ふりおこすべし
別れ来て
別れ来て、勤めに対ふすべなさよ。とほ嶺のみ雪 あまり輝く
春畠に菜の葉荒びしほど過ぎて、おもかげに 師をさびしまむとす
東に 雪をかうぶる山なみの はろけき見れば、帰りたまへり
つゝましく 面わやつれてゐたまへば、さびしき日々の 思ほゆるかも
朝けより 彼岸中日空低く、霰のはしる道を 来にけり
人のうへのはかなしごとを しみ/″\と喜び聞きて、師はおはすなり
村田正言を憶ふ
かへり来て、夕日まだある空ひろし。さびしき死にを 思ひやまずも
今はまたく遙かになりし常徳の いくさのさまは、伝ふることなし
一兵卒として 過ぎにけり。よき性の、心を離れず、一日すぎにき
年長く つひに 音なき汝が死は、思ひ見れども さびしかりけり
この日頃 三
春の日の 山にはたらく人音の かゝはりなくて、しづかなりけり
雨ののち 照る日しづけき春の日の空に澄みゆく鳥は、さびしき