暁と夕の詩
本文約2,400字 ・ 読了時間 約5分
あらすじ(AIが作成しました)
西風や秋の訪れ、静かな部屋の日常、眠りの中の夢などを題材に、喪失感や追憶の情景を綴る詩集。失われた過去の調べ、移ろいゆく季節の風情、あかりを囲む人々の営み、そして眠りの中で溶けゆく言葉を重ね合わせ、夜と朝の境界を彷徨う心象を繊細に描き出す。過ぎ去ったものへの慕情や、眠りから覚めた後に残る空虚な戸惑いを通じ、時間の経過と個人の孤独を見つめる抒情詩を収める。
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或る風に寄せて
おまへのことでいつぱいだつた 西風よ
たるんだ唄のうたひやまない 雨の昼に
とざした窗のうすあかりに
さびしい思ひを噛みながら
おぼえてゐた おののきも 顫へも
あれは見知らないものたちだ……
夕ぐれごとに かがやいた方から吹いて来て
あれはもう たたまれて 心にかかつてゐる
おまへのうたつた とほい調べだ――
誰がそれを引き出すのだらう 誰が
それを忘れるのだらう……さうして
夕ぐれが夜に変るたび 雲は死に
そそがれて来るうすやみのなかに
おまへは 西風よ みんななくしてしまつた と
[#改ページ]
やがて秋……
やがて 秋が 来るだらう
夕ぐれが親しげに僕らにはなしかけ
樹木が老いた人たちの身ぶりのやうに
あらはなかげをくらく夜の方に投げ
すべてが不確かにゆらいでゐる
かへつてしづかなあさい吐息にやうに……
(昨日でないばかりに それは明日)と
僕らのおもひは ささやきかはすであらう
――秋が かうして かへつて来た
さうして 秋がまた たたずむ と
ゆるしを乞ふ人のやうに……
やがて忘れなかつたことのかたみに
しかし かたみなく 過ぎて行くであらう
秋は……さうして……ふたたびある夕ぐれに――
[#改ページ]
小譚詩
一人はあかりをつけることが出来た
そのそばで 本をよむのは別の人だつた
しづかな部屋だから 低い声が
それが隅の方にまで よく聞えた(みんなはきいてゐた)
一人はあかりを消すことが出来た
そのそばで 眠るのは別の人だつた
糸紡ぎの女が子守の唄をうたつてきかせた
それが窓の外にまで よく聞えた(みんなはきいてゐた)
幾夜も幾夜もおんなじやうに過ぎて行つた……
風が叫んで 塔の上で 雄鶏が知らせた
――兵士は旗を持て 驢馬は鈴を掻き鳴らせ!
それから 朝が来た ほんとうの朝が来た
また夜が来た また あたらしい夜が来た
その部屋は からつぽに のこされたままだつた
[#改ページ]
眠りの誘ひ
おやすみ やさしい顔した娘たち
おやすみ やはらかな黒い髪を編んで
おまへらの枕もとに胡桃色にともされた燭台のまはりには
快活な何かが宿つてゐる(世界中はさらさらと粉の雪)
私はいつまでもうたつてゐてあげよう
私はくらい窓の外に さうして窓のうちに