夜に就て
本文約3,200字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
赤いチョッキに青い帽子姿のゴンゴンは、サアカス小屋で奇妙な踊りを見たり、雲から少女が現れる不思議な体験をする。ある時、谷川の水面に映る自分を見つめ、空と水面の雲の重なりに思いを馳せる。本書は、語り手が好意を寄せる少女に対し、架空のゴンゴンの物語や夜にまつわる童話を語り聞かせる様子を綴る。現実と空想の境界で揺れ動く夜の情景や、言葉にできない孤独と少女への想いを、詩的な散文と詩編を通じて鮮やかに描き出す。
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凡そ人は夢のなかに氣ままにしのびいることの出來ないたちのものである。それは夢といふものが、シヤボン玉に似て、無理になかへおしこまうとするとやぶれてしまふからである。
ところが、ゴンゴンといふ者には、その不思議が出來た。
これは、彼の夢物語であるが、それを諸君にお傳へしよう。
A――
それは、にぎやかな町であつた。多分、夕方であつたのであらう。靄のやうなものがうつすら流れてゐた。ゴンゴンは、とある横町に一軒のサアカス小屋をみつけたのである。
その看板には、ごくうすい色で、栗毛の馬に乘つたふたりの少女の圖が描いてあつた。その少女たちは、いづれもポツリとした瞳を持つて居り、水色の上衣を着てゐた。
そこで、ゴンゴンはその小屋へはいつた。
なかは、人混みで、人の空氣のために、最初はつきりものが見えなかつた。
目が馴れると、舞臺では、一種の舞踊が行はれてゐた。それといふのは、ひとりの踊り子が片方の手と足と目をめちやくちやに速く動かし、もう片方の手と足と目はぽかんとしてゐるといつた具合に、それも手を交へながら、空中で踊つてゐた。實に奇妙であつた。カンカン踊りといふものがあるときいたが、これは半分づつのカンカン踊りともいふのであらう。
勿論、それを見るや、ゴンゴンはふきだしてしまつたのである。
B――
或る日、ゴンゴンはひとりの神さまに出會つた。そこで、ふだんから不思議に思つてゐたから、なぜ雲を作るんですか?と尋ねると、神さまはそれには答へないで、そのかはりにゴンゴンの目の前で雲を作つてみせて下さつた。それはたいへんうつくしいうろこ雲であつた。さうして、よく見ると、その小さな一片一片には、可愛らしい少女が乘つてゐたのである。
C――
ゴンゴンが、町を歩いてゐたら、白い雲が、頭のうへを飛んで行つた。
暫くすると、大きな音がポンポンとして、四つ角に人がもう大勢あつまつてゐる。かきわけてゆくと、なアんだ――今の雲が、粉々になつて、そこに散らばつてゐた。
僕は、ゴンゴンの服裝のことをまだ一言も言つてゐなかつた。――彼は、いつも赤いチヨツキを着て、青い帽子をかぶつてゐるのである。