TRENDIA CLASSIC

蛇の花嫁

大手拓次

1 / 3

しろきもの

しろきもの

ゆくりなく 心のうへをただよへり

ながるるひまもなく

あはきがなかに なほあはき

かすかなる 鳥の啼音のつらなれり

ほのあをき貝

ほのあをき貝をもて

わがただよへる心を をさめよ

らうたけし ほのあをき貝をもて

わがかなしみを をさめよ

相見ざる日

こころ おもくして

うなだれてのみ あるものを

身をつつむ ひぐらし色のこゑ

さだかならぬ姿

ありなしの すがたなればや

きみみえず

うすきひかりの ながれきて

わがながしめを よびいづる

うたの心

あめは こずゑのなかにあり

うたはざる 歌のこころの

ゆふぐれに ときめけり

秋の日はうすくして

秋の日は うすくして

衣に透けり

秋の日は

みえざるごとく とほくして

思ひのかげを うごかせり

二人静

汝がこゑは

月の夜にゆるる

二人静のはな

心のかげのこゑ

ただよひゆくもの

わが心のなかに

ただよひゆくは

ゆふぐれのひかりをあびて おとづるる

汝がこころの かげのこゑ

ゆめ

いづことも わかねども

そのかたち わすれがたかり

そのいろの わすれがたかり

あはあはと にほひのこれば

絶えせざる おもひはるけし

遠く思はるる日

汝がすがた とほくして

空にうつれる葉のごとく

さびしさは わが胸に波をうがてり

すぎし影

病めるとき

心のなかにすぎゆきし

かげともあらぬ 影のかげ

その すぎゆきしにほひをば

ひそかに ひそかに

はぐくめり

ゆふぐれ

みぞれするかや

このゆふぐれの日に

こゑもなく

ひとびとの 行き交へり

しめらへる花

くれなゐの

花のさきけり

夜の潮 みちくるときに

しめらひの花の

ひとつさきけり

あをき影

あはれ あはれ

眼はとざされて みづにかくれし

なにものも みえわかず

ひとつ ひとつ あをき影あり

しろき花

むなしき おゆびもて

まさぐれば

しろき花 ゆるるがごとし

暮れなやむ ゆふぐれのとき

ともしびの揺れの如く

とほき影の つながりて

この あしたの空につたはりくる

きえがての思ひ うごきぬ

ともしびの

たわわなる ゆれのごとくに

悲しみは去らず

かなしみは かなたへ去らず

日影のごとく うつろへど

はてしなき いのちのなかに たそがるる

水に浮く花

みづのなかに うかべる花

こゑをはなてり

あをきまぼろし

かぎりなく ひろごりゆく

あをき手のまぼろし

大手拓次の他の作品