二、三羽――十二、三羽
本文約14,400字 ・ 読了時間 約29分
あらすじ(AIが作成しました)
引越しを繰り返す祖母と雀の思い出を抱く語り手は、麹町の庭で弱った仔雀を拾い、親雀の献身的な姿に触れる。やがて親雀の導きで仔雀が空へ飛び去って以来、語り手は庭に餌を撒き続け、雀との交流を深める。ある猛暑の日、谷底の異様な風俗の家へ招かれた体験は、語り手に雀の宿への迷い込みを想起させる。その後、震災で全てが焼失した跡地にも変わらず姿を見せる雀の姿を通じ、日常と幻想が交錯する記憶を綴る。
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引越しをするごとに、「雀はどうしたろう。」もう八十幾つで、耳が遠かった。――その耳を熟と澄ますようにして、目をうっとりと空を視めて、火桶にちょこんと小さくいて、「雀はどうしたろうの。」引越しをするごとに、祖母のそう呟いたことを覚えている。「祖母さん、一所に越して来ますよ。」当てずッぽに気安めを言うと、「おお、そうかの。」と目皺を深く、ほくほくと頷いた。
そのなくなった祖母は、いつも仏の御飯の残りだの、洗いながしのお飯粒を、小窓に載せて、雀を可愛がっていたのである。
私たちの一向に気のない事は――はれて雀のものがたり――そらで嵐雪の句は知っていても、今朝も囀った、と心に留めるほどではなかった。が、少からず愛惜の念を生じたのは、おなじ麹町だが、土手三番町に住った頃であった。春も深く、やがて梅雨も近かった。……庭に柿の老樹が一株。遣放しに手入れをしないから、根まわり雑草の生えた飛石の上を、ちょこちょことよりは、ふよふよと雀が一羽、羽を拡げながら歩行いていた。家内がつかつかと跣足で下りた。いけずな女で、確に小雀を認めたらしい。チチチチ、チュ、チュッ、すぐに掌の中に入った。「引掴んじゃ不可い、そっとそっと。」これが鶯か、かなりやだと、伝統的にも世間体にも、それ鳥籠をと、内にはないから買いに出る処だけれど、対手が、のりを舐める代もので、お安く扱われつけているのだから、台所の目笊でその南の縁へ先ず伏せた。――ところで、生捉って籠に入れると、一時と経たないうちに、すぐに薩摩芋を突ついたり、柿を吸ったりする、目白鳥のように早く人馴れをするのではない。雀の児は容易く餌につかぬと、祖母にも聞いて知っていたから、このまだ草にふらついて、飛べもしない、ひよわなものを、飢えさしてはならない。――きっと親雀が来て餌を飼おう。それには、縁では可恐がるだろう。……で、もとの飛石の上へ伏せ直した。
母鳥は直ぐに来て飛びついた。もう先刻から庭樹の間を、けたたましく鳴きながら、あっちへ飛び、こっちへ飛び、飛騒いでいたのであるから。