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TORENDIA

遺稿

本文約16,000字 ・ 読了時間 約32分

あらすじ(AIが作成しました)

修禅寺の奥の院へ向かう道すがら、糸七という男は霧深い夜道で不思議な提灯を提げた美しい女とすれ違う。雨の中、その姿は提灯の明かりとともに幽玄に浮かび上がり、糸七はそれがかつて按摩から聞いた話のようだと感じながら、やがて女が山へと消えていくのを目撃する。赤蜻蛉の模様が浮かぶ提灯を手に、霧の中を静かに歩み去る女の姿は、現実と幻想の境界を揺るがすような気配を帯びていた。

泉鏡花

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この無題の小説は、泉先生逝去後、机辺の篋底に、夫人の見出されしものにして、いつ頃書かれしものか、これにて完結のものか、はたまた未完結のものか、今はあきらかにする術なきものなり。昭和十四年七月号中央公論掲載の、「縷紅新草」は、先生の生前発表せられし最後のものにして、その完成に尽くされし[#「尽くされし」はママ]努力は既に疾を内に潜めいたる先生の肉体をいたむる事深く、その後再び机に対われしこと無かりしという。果して然らばこの無題の小説は「縷紅新草」以前のものと見るを至当とすべし。原稿はやや古びたる半紙に筆と墨をもって書かれたり。紙の古きは大正六年はじめて万年筆を使用されし以前に購われしものを偶々引出して用いられしものと覚しく、墨色は未だ新しくしてこの作の近き頃のものたる事を証す。主人公の名の糸七は「縷紅新草」のそれとひとしく、点景に赤蜻蛉のあらわるる事もまた相似たり。「どうもこう怠けていてはしかたが無いから、春になったら少し稼ごうと思っています。」と先生の私に語られしは昨年の暮の事なりき。恐らくこの無題の小説は今年のはじめに起稿されしものにはあらざるか。

雑誌社としては無題を迷惑がる事察するにあまりあれど、さりとて他人がみだりに命題すべき筋合にあらざるを以て、強てそのまま掲出すべきことを希望せり。

(水上瀧太郎附記)

伊豆の修禅寺の奥の院は、いろは仮名四十七、道しるべの石碑を畷、山の根、村口に数えて、ざっと一里余りだと言う、第一のいの碑はたしかその御寺の正面、虎渓橋に向った石段の傍にあると思う……ろはと数えて道順ににのあたりが俗に釣橋釣橋と言って、渡ると小学校がある、が、それを渡らずに右へ廻るとほの碑に続く、何だか大根畠から首をもたげて指示しをするようだけれど、このお話に一寸要があるので、頬被をはずして申しておく。

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