本文へ移動
TORENDIA

瀧口入道

本文約48,300字 ・ 読了時間 約97分

あらすじ(AIが作成しました)

西八條の邸宅で平清盛が催した華やかな宴の席で、維盛と重景が舞を披露し、続いて少女・横笛が舞い踊る。この宴を機に、以前から横笛に思いを寄せていた瀧口時頼は、激しい苦悩の末に出家を決意する。時を経て、没落した維盛らと再会した時頼は、彼らが和歌の浦へ向かったことを知り後を追うが、そこには主君たちの入水の跡があった。時頼は自身の人生を振り返り、主家の運命を背負ったまま静かに最後を迎える。

高山樗牛

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 66

第一

やがて來む壽永の秋の哀れ、治承の春の樂みに知る由もなく、六歳の後に昔の夢を辿りて、直衣の袖を絞りし人々には、今宵の歡曾も中々に忘られぬ思寢の涙なるべし。

驕る平家を盛りの櫻に比べてか、散りての後の哀れは思はず、入道相國が花見の宴とて、六十餘州の春を一夕の臺に集めて都西八條の邸宅。君ならでは人にして人に非ずと唱はれし一門の公達、宗徒の人々は言ふも更なり、華冑攝の子弟の、苟も武門の蔭を覆ひに當世の榮華に誇らんずる輩は、今日を晴にと裝飾ひて綺羅星の如く連りたる有樣、燦然として眩き許り、さしも善美を盡せる虹梁鴛瓦の砌も影薄げにぞ見えし。あはれ此程までは殿上の交をだに嫌はれし人の子、家の族、今は紫緋紋綾に禁色を猥にして、をさ/\傍若無人の振舞あるを見ても、眉を顰むる人だに絶えてなく、夫れさへあるに衣袍の紋色、烏帽子のため樣まで萬六波羅樣をまねびて時知り顏なる、世は愈平家の世と覺えたり。

高山樗牛の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本