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TORENDIA

沈丁花

本文約9,400字 ・ 読了時間 約19分

あらすじ(AIが作成しました)

はる子は知人の紹介で小畑千鶴子と知り合う。東京へ出てきたものの、居候先での軋轢や経済的な不安、職業上の行き詰まりに苦しむ千鶴子の窮状を知り、はる子は同情を寄せ助言や紹介を行う。しかし、自身の境遇への焦燥や複雑な自尊心から、千鶴子ははる子の親身な態度に対しても反感や屈辱を抱き始める。理想と現実の狭間で揺れ動く女性の心の葛藤と、対等な関係を築くことの難しさを描く。

宮本百合子

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はる子は或る知己から、一人の女のひとを紹介された。小畑千鶴子と云った。千鶴子が訪ねて来た時はる子は家にいなかった。それなり一年ばかりすぎた後、古びた紹介状が再び封入して千鶴子から会いたいという手紙が来た。はる子はすぐ承諾の返事を出した。先始めて来た時留守にしていたまま挨拶もしずにしまった。それを思い出したのであった。

初対面のとき、はる子は千鶴子の神経質そうな顔立ちを眺めながら

「ずっと前から×さん御存知?」

ときいた。×さんが彼女を紹介した人で、彼は現代の傑れた作家の一人であった。

千鶴子の国は西の方で、そこの女学校の専門部で国文を専攻し、暫く或る有名なこれも物を書く人の助手をした後、その人のすすめもあり上京したのだそうであった。まだ一年と少しにしか東京に来てならず、×さんと知ったのもその後のことだと云った。

「でも×さんという方は洗練された、都会人らしい神経の方ですね、いろいろな場合、私の心持を本当によく劬って下さるのが分ります」

「書くものも見ていただきなさるの?」

「いいえ、書いたものは一度もお見せしません」

芸術の上で、彼の弟子になる積りはないという意味のことを千鶴子は深く思っているところあるらしい口調で云った。

「あの紹介状を書いて下さいました時もね、御話しているうちに悲しくなって、私泣いてしまったのです。×さんは女のひとにいい友達がないからいけないのだろうって仰云って――方々に連れて行っていただいたりするのに×さんがいいだろうって仰云ったのですが、×さんは何だか伯母さんのような気がするから、本当に友達として対せるあなたに書いていただいたのです」

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