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TORENDIA

愛

本文約900字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

愛という言葉がいつしか人間の偽善や欺瞞の象徴となり、悪用される現状を批判する。人類が愛を定義したことで始まった悲劇を直視し、社会的な矛盾の中で歪められた愛のあり方を問い直す。著者は、人間らしくない事情や不条理を憎む純潔な怒りと行動こそが真の愛を支えると説き、愛にも階級性という冷徹な真実があることを指摘する。本書は、ドロドロとした社会から真実の愛を救い出すための道を論じる。

宮本百合子

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🎧 愛 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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愛ということばは、いつから人間の社会に発生したものでしょう。愛という言葉をもつようになった時期に、人類はともかく一つの飛躍をとげたと思います。なぜなら、人間のほかの生きものは、愛の感覚によって行動しても、愛という言葉の表象によってまとめられた愛の観念はもっていませんから。

更に、その愛という言葉が、人間同士の思いちがいや、だましあいの媒介物となったのは、いつの頃からでしょう。そして、愛という字が近代の偽善と自己欺瞞のシムボルのようになったのはいつの時代からでしょうか。三文文士がこの字で幼稚な読者をごまかし、説教壇からこの字を叫んで戦争を煽動し、最も軽薄な愛人たちが、彼等のさまざまなモメントに、愛を囁いて、一人一人男や女をだましています。

愛という字は、こんなきたならしい扱いをうけていていいでしょうか。

愛という言葉をもったとき、人間の悲劇ははじまりました。人類愛という声がやかましく叫ばれるときほど、飢えや寒さや人情の刻薄がひどく、階級の対立は鋭く、非条理は横行します。

わたしは、愛を愛します。ですから、このドロドロのなかに溺れている人間の愛をすくい出したいと思います。

どうしたら、それが可能でしょうか。わたしの方法は、愛という観念を、あっち側から扱う方法です。人間らしくないすべての事情、人間らしくないすべての理窟とすべての欺瞞を憎みます。愛という感情が真実わたしたちの心に働いているとき、どうして漫画のように肥った両手をあわせて膝をつき、存在しもしない何かに向って上眼をつかっていられましょう。この社会にあっては条理にあわないことを、ないようにしてゆくこと。憎むべきものを凜然として憎むこと。その心の力がなくて、どこに愛が支えをもつでしょうか。

愛とか幸福とか、いつも人間がこの社会矛盾の間で生きながら渇望している感覚によって、私たちがわれとわが身をだましてゆくことを、はっきり拒絶したいと思います。愛が聖らかであるなら、それは純潔な怒りと憎悪と適切な行動に支えられたときだけです。そして、現代の常識として忘れてならぬ一つのことは、愛にも階級性があるという、無愛想な真実です。

〔一九四八年二月〕

完

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