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TORENDIA

鱷

本文約40,900字 ・ 読了時間 約82分

あらすじ(AIが作成しました)

新道で公開されている鰐を見学に訪れた学者イワン・マトヱエヰツチユは、不運にも鰐に丸呑みされてしまう。鰐の腹中という異常な境遇にありながら、イワンは自らの生存を悲観せず、むしろこの奇妙な状況を機に経済理論の建設や世間への教化を試みようと野心を抱く。周囲の人々や世論がこの事件を騒がしく取り上げる中、イワンの友人はその滑稽かつ傲慢な様を目の当たりにし、困惑を深めながらも事態の行方を見守る。

ドストエウスキー Fyodor Mikhailovich Dostoevski

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一

己の友達で、同僚で、遠い親類にさへなつてゐる、学者のイワン・マトヱエヰツチユと云ふ男がゐる。その男の細君エレナ・イワノフナが一月十三日午後〇時三十分に突然かう云ふ事を言ひ出した。それは此間から新道で見料を取つて見せてゐる大きい鰐を見に行きたいと云ふのである。夫は外国旅行をする筈で、もう汽車の切符を買つて隠しに入れてゐる。旅行は保養の為めと云ふよりは、寧ろ見聞を広めようと思つて企てたのである。さう云ふわけで、言はゞもう休暇を貰つてゐると看做しても好いのだから、その日になんの用事もない。そこで細君の願を拒むどころでなく、却て自分までが、この珍らしい物を見たいと云ふ気になつた。

「好い思ひ付きだ。その鰐を一つ行つて見よう。全体外国に出る前に、自分の国と、そこにゐる丈のあらゆる動物とを精しく見て置くのも悪くはない。」夫は満足らしくかう云つた。

さて細君に臂を貸して、一しよに新道へ出掛ける事にした。己はいつもの通り跡から付いて出掛けた。己は元から家の友達だつたから。

この記念すべき日の午前程、イワンが好い機嫌でゐた事はない。これも人間が目前に迫つて来てゐる出来事を前知する事の出来ない一例である。新道へ這入つて見て、イワンはその建物の構造をひどく褒めた。それから、まだこの土地へ来たばかりの、珍らしい動物を見せる場所へ行つた時、己の分の見料をも出して、鰐の持主の手に握らせた。そんな事を頼まれずにした事はこれまで一度もなかつたのである。夫婦と己とは格別広くもない一間に案内せられた。そこには例の鰐の外に、秦吉了や鸚鵡が置いてある。それから壁に食つ付けてある別な籠に猿が幾疋か入れてある。戸を這入つて、直ぐ左の所に、浴槽に多少似てゐる、大きいブリツキの盤がある。この盤は上に太い金網が張つてあつて、そこにやつと一寸ばかりの深さに水が入れてある。この浅い水の中に、非常に大きい鰐がゐる。まるで材木を横へたやうに動かずにゐる。多分この国の湿つた、不愉快な気候に出合つて、平生の性質を総て失つてしまつたのだらう。そのせいか、どうもそれを見ても、格別面白くはない。

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