かぶと虫
本文約3,400字 ・ 読了時間 約7分
あらすじ(AIが作成しました)
お花畑でかぶと虫を捕まえた少年太郎は、誰かと一緒に遊ぼうと友達の家を訪ね歩く。病気で寝ている金平や遠方へ預けられた恭一の不在を知り、最後に頼りとする年上の安雄のもとへ向かう。しかし、大人として仕事に励む安雄から子供の世界とは切り離されたと告げられ、太郎は深い悲しみに包まれる。本作は、大人への過渡期に直面した少年の心に広がる、泣くこともできない静かな哀しみを情緒豊かに描く。
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一
お花畑から、大きな虫がいつぴき、ぶうんと空にのぼりはじめました。
からだが重いのか、ゆつくりのぼりはじめました。
地面から一メートルぐらゐのぼると、横にとびはじめました。
やはり、からだが重いので、ゆつくりいきます。うまやの角の方へのろのろいきます。
見てゐた小さい太郎は、縁側からとびおりました。そしてはだしのまゝ、篩をもつて追つかけていきました。
うまやの角をすぎて、お花畑から、麦畑へあがる、草の土堤の上で、虫をふせました。
とつて見るとかぶと虫でした。
「ああ、かぶと虫だ。かぶと虫とつた。」
と小さい太郎はいひました。けれど誰も何ともこたへませんでした。小さい太郎は兄弟がなくて一人ぼつちだつたからです。一人ぼつちといふことはこんなときたいへんつまらないと思ひます。
小さい太郎は縁側にもどつて来ました。そしてお婆さんに、
「お婆さん、かぶと虫をとつた。」
と見せました。
縁側に坐つて居眠りしてゐたお婆さんは、眼をあいてかぶと虫をみると、
「なんだ、がにかや。」
といつて、また眼をとぢてしまひました。
「違ふ、かぶと虫だ。」
と小さい太郎は、口をとがらしていひましたが、お婆さんには、かぶと虫だらうが蟹だらうが、かまはないらしく、ふんふん、むにやむにやといつて、ふたゝび眼をひらかうとしませんでした。
小さい太郎は、お婆さんの膝から糸切れをとつて、かぶと虫のうしろの足をしばりました。そして縁板の上を歩かせました。
かぶと虫は牛のやうによちよちと歩きました。小さい太郎が糸のはしを押へると、まへへ進めなくて、カリカリと縁板を掻きました。
しばらくそんなことをしてゐましたが、小さい太郎はつまらなくなつて来ました。きつと、かぶと虫には面白い遊び方があるのです。誰か、きつとそれを知つてゐるのです。
二
そこで小さい太郎は、大頭に麦稈帽子をかむり、かぶと虫を糸のはしにぶらさげて、かどぐちを出ていきました。
昼は、たいそう静かで、どこかでむしろをはたく音がしてゐるだけでした。