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TORENDIA

笑

本文約12,100字 ・ 読了時間 約25分

あらすじ(AIが作成しました)

死への恐怖と自己の消滅に苛まれる医学士は、自身の肉体が壊れゆく幻覚に日々を支配されている。ある時、学士は同じく死を意識し、太陽の冷却が五千年後に迫っていることを発見した患者と出会う。万物の終焉が遠い未来ではなく、目前に迫っているという知見を共有した二人は、その理不尽かつ滑稽な現実を前に、狂おしいほどに声を上げて笑い始める。人間存在の無意味さと、避けられぬ死への絶望的な境地を描く。

アルチバシェッフ・ミハイル・ペトローヴィチ Artsybashev Mikhail Petrovich

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窓の前には広い畑が見えてゐる。赤み掛かつた褐色と、緑と、黒との筋が並んで走つてゐて、ずつと遠い所になると、それが入り乱れて、しほらしい、にほやかな摸様のやうになつてゐる。この景色には多くの光と、空気と、際限のない遠さとがある。それでこれを見てゐると誰でも自分の狭い、小さい、重くろしい体が窮屈に思はれて来るのである。

医学士は窓に立つて、畑を眺めてゐて、「あれを見るが好い」と思つた。早く、軽く、あちらへ飛んで行く鳥を見たのである。そして「飛んで行くな」と思つた。鳥を見る方が畑を見るより好きなのである。学士は青々とした遠い果で、鳥が段々小さくなつて消えてしまふのを、顔を蹙めて見てゐて、自ら慰めるやうに、かう思つた。「どうせ遁れつこはないよ。こゝで死なゝければ余所で死ぬるのだ。死なゝくてはならない。」

心好げに緑いろに萌えてゐる畑を見れば、心持がとうとう飽くまで哀れになつて来る。「これはいつまでもこんなでゐるのだ。古い古い昔からの事だ。冢穴の入口でも、自然は永遠に美しく輝いてゐるといふ詞があつたつけ。平凡な話だ。馬鹿な。こつちとらはもうそんな事を言ふやうな、幼稚な人間ではない。そんな事はどうでも好い。己が物を考へても、考へなくても、どうでも好い」と考へて、学士は痙攣状に顔をくしや/\させて、頭を右左にゆさぶつて、窓に顔を背けて、ぼんやりして部屋の白壁を見詰めてゐた。

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