メールストロムの旋渦
本文約19,000字 ・ 読了時間 約39分
あらすじ(AIが作成しました)
ノルウェーのロフォーデン諸島を訪れた語り手が、かつてメールストロムの巨大な渦に巻き込まれ、九死に一生を得た老人からその体験談を聞く。老人は、船が激しい潮流と渦によって深淵へと引きずり込まれる恐怖と、極限状態で生き延びた経緯を語る。激しい渦の威力と、自然の脅威に直面した人間の極限的な心理状態を克明に描く。
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自然における神の道は、摂理におけると同様に、われら人間の道と異なっている。また、われらの造る模型は、広大深玄であって測り知れない神の業にはとうていかなわない。まったく神の業はデモクリタスの井戸よりも深い。
ジョオゼフ・グランヴィル
[#改ページ]
私たちはそのとき峨々としてそびえ立つ岩の頂上にたどりついた。四、五分のあいだ老人はへとへとに疲れきって口もきけないようであった。
「まだそんなに古いことではありません」と、彼はとうとう話しだした。「そのころでしたら、末の息子と同じくらいにらくらくと、この道をご案内できたのですがね。それが三年ほど前に私は、どんな人間も遭ったことのないような――たとえ遭ったにしても、生き残ってそれを話すことなんぞはとてもできないような――恐ろしい目に遭って、そのときの六時間の死ぬような恐ろしさのために、体も心もすっかり参ってしまったものでしてね。あなたは私をずいぶん老人だと思っていらっしゃる――が、ほんとうはそうじゃないのですよ。たった一日もたたないうちに、真っ黒だった髪の毛がこんなに白くなり、手足の力もなくなって、神経が弱ってしまいました。だからいまでは、ほんのちょいとした仕事にも体がぶるぶる震え、ものの影にもおびえるような有様です。こんな小さい崖から見下ろしても眩暈がするんですからね」