TRENDIA CLASSIC

生態の流行

宮本百合子

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二ヵ月ばかり前の或る日、神田の大書店の新刊書台のあたりを歩いていたら、ふと「学生の生態」という本が眼に映った。おや、生態ばやりで、こんなジャーナリスティックな模倣があらわれていると半ば苦笑の心持もあってその本を手にとってみたら、それはどこかの場当りなブック・メイカアがこしらえているものではなくて、官立大学の学生主事をしている人が、そういう職名もちゃんと肩書きに明記して著している本であった。

このことは、忘れることの出来ない印象となって今日も私の心にのこされている。学生主事という仕事が本来どういう立て前で設けられているのかよくわからないが、ともかく学生生活の各面に接触をもつべき立場なのだろう。従って「結婚の生態」が現代らしい一つの流行を示していることも、元より知られていただろう。この種の著書の題に、その通俗な流行作品の字をそのままもって来て使う神経というものは、文学の感覚から遠いばかりでなく、学者らしさ或は先生らしさと云われて来ているものからも大分距離があるように思える。文学の感覚が活々としているなら、流行の元祖のその小説が、日本の現代文学にどういう在りようをしているかということの理解から、その同じ字を使う気にはなれなそうである。学者らしく又先生らしい心持の勘には、今日のジャーナリズムの相当荒っぽい物音がそのまま疑問もなく谺することは無さそうに思える。著者にとりてこれは不幸な偶然であるのかもしれないけれども、第三者の心には、今日の日本の文化の肌理はこうなって来ているかという、一種の感慨を深くさせるのであった。

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