本文へ移動
TORENDIA

世界の寡婦

本文約8,500字 ・ 読了時間 約17分

あらすじ(AIが作成しました)

八月十五日の終戦により、戦死した夫や息子を悼む日本の女性たちの深い悲しみが綴られる。本作は、現代戦争がもたらした膨大な数の未亡人に焦点を当て、その不幸が社会の構造的な矛盾に起因することを論じる。ヨーロッパ諸国の事例を引き合いに、個人の運命を超えた歴史的課題として平和と安定を捉え、孤独な女性たちが単なる犠牲者としてではなく、人間らしい社会建設を担う主体として連帯し発言することの歴史的意義を説く。

宮本百合子

🎧 まだ音声版はありません

リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 12

八月十五日に戦争が終って、はじめて日本じゅうの家々に明るく電燈がついた。久しぶりにうす暗いかさをとりはずし、隅々までくっきりと照らしだされた炉ばたに坐って一家のものがあらためて互の顔を眺めあった刹那、湧きあがった思いと新たな涙こそ忘れがたいと思う。冴え冴えとした夜の明りは、何ヵ月も薄くらがりにかくしていた家の様子をはっきりと目に見させ、それとともに、この灯の下に、団欒から永久にかけてしまった、いとしい者のあることをも、今さら身に刻みこむ鮮やかさで思い知らされたのであった。灯のついたはじめての夜、家々の思い出と涙とは新たであった。

戦争で良人を失った女のひとの数は日本だけでどのくらいにのぼるだろう。今こそ数はわからないが、先頃の人口調査の結果では、男女の人口比率で、日本では婦人が男子よりも三百万人多かった。ヨーロッパの国々とちがって、これまでの日本は大体男女人口比率が平均していたのに、この戦争のあとでは、三百万人も婦人が多くなった。つまりそれだけ男が殺された。三百万人という婦人の中には、もとより年よりも子供も入っていよう。しかし、どんなに多い割合で良人を失った妻、父や兄弟を失った娘、息子らを失った母、そして、愛人を死なした若いひとたちがこめられていることだろう。

第二次ヨーロッパ大戦で、大きい深刻な犠牲を蒙ったのは、日本の婦人ばかりではなかったし戦争に敗北した国々の婦人たちばかりでもなかった。ドイツ・イタリー・日本。これらの国の女性は、ほんとうに有無をいわさず、愛情の懐から男たちを奪われ、野蛮と不条理で押しすすめた戦争のうちに愛する者たちを死なした。ファシズム・ナチズムの不条理と非人間らしさと戦って、それに勝利し、人間は最後には理性ある生きものであることを証明した民主主義国――アメリカ・イギリス・ソヴェト同盟・中国その他の国々でも、そこで行ったのは戦争であった。大規模で最も科学的な殺戮であった。正しさのためにも婦人は自分と愛する者たちの運命とを、歴史の仮借ない歯車の間においたのであった。

宮本百合子の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本