TRENDIA CLASSIC

本当の愛嬌ということ

宮本百合子

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戦争中私たちは随分ひどい生活をしました。そして八月十五日が来た時、日本のすべての人々、とくに婦人たちの目には実に感慨深いなみだがうかんだと思います。これで惨虐なそして不合理な権力の抑圧は終ったと。戦争後私たちの生活は案外に複雑な矛盾で苦しみ、インフレーションで苦しんでいます。人の心も荒んでいます。こういう世相の中で私たちの求めているのは何でしょう。平和が来たというにふさわしい生活の安定と人間らしい心です。おたがいの親切を求めています。その心もちをたいへん巧みに捕えて、片山哲氏は首相になると早々街頭録音に出かけるし、新橋のきわで安井都長官が芋苗を売る手伝いをするし、大変親しみ易い政府がはじまったようです。小包米とか赤ん坊の牛乳、姙産婦用ラードの配給、これは根本的な食糧問題の危機とインフレーションによる私たちの生存の危機を根本的に改善するものではないけれども、今の事情はあんまりひどいから誰しもそれを無いよりはましと思います。

親切の態度、愛嬌のよさ、主婦や子供に振りまかれるおあいそ。政治と愛嬌とが結ばれた時、政治と不思議な人当りのよさが結ばれた時、若い娘が見知らぬ男からひどくあいそよく物をいいかけられた時のようなうす気味悪さを感じます。しかし孤独な生活に苦しみ愛情に飢えている若い娘はうす気味悪く思った自然の気持ちをまぎらされて甘言にひっかかります。

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