TORENDIA
木の子説法
泉鏡花
TORENDIA
木の子説法
本文約17,000字 ・ 読了時間 約34分
あらすじ(AIが作成しました)
画工の毛利一樹と語り手は、麻布の街で見つけた狂言の仮舞台を訪れる。狂言の出し物として演じられる「茸」の舞台上で、一樹は突如、悲劇的な過去を持つ女の面影を重ねる。舞台上の役者が狂気や不可思議な現象を纏う中、観客の目の前で現実と幻想が混ざり合い、お雪という名の女がかつて経験した過酷な運命と、ある母子の物語が浮かび上がる。これは狂言の演目を軸に、過去の記憶と怪異が交錯する様を描く作品である。
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「――鱧あみだ仏、はも仏と唱うれば、鮒らく世界に生れ、鯒へ鯒へと請ぜられ……仏と雑魚して居べし。されば……干鯛貝らいし、真経には、蛸とくあのく鱈――」
……時節柄を弁えるがいい。蕎麦は二銭さがっても、このせち辛さは、明日の糧を思って、真面目にお念仏でも唱えるなら格別、「蛸とくあのく鱈。」などと愚にもつかない駄洒落を弄ぶ、と、こごとが出そうであるが、本篇に必要で、酢にするように切離せないのだから、しばらく御海容を願いたい。
「……干鯛かいらいし……ええと、蛸とくあのく鱈、三百三もんに買うて、鰤菩薩に参らする――ですか。とぼけていて、ちょっと愛嬌のあるものです。ほんの一番だけ、あつきあい下さいませんか。」
こう、つれに誘われて、それからの話である。「蛸とくあのくたら。」しかり、これだけに対しても、三百三もんがほどの価値をお認めになって、口惜い事はあるまいと思う。