縷紅新草
本文約24,200字 ・ 読了時間 約49分
あらすじ(AIが作成しました)
冬の小春日和、辻町糸七と従姉の娘・お米は、母の墓参りのために燈籠寺を訪れる。かつて悲劇的な死を遂げた初路の記念碑である「糸塚」建立の話から、彼女の過去や境遇が明かされる。夕暮れ時、寺の客殿で初路を偲びながら、お米は提灯に赤蜻蛉の絵を描き加える。墓地で赤蜻蛉が動く不思議な光景を目にした二人は、夕闇の中を山門から下山していく。
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一
あれあれ見たか、
あれ見たか。
二つ蜻蛉が草の葉に、
かやつり草に宿をかり、
人目しのぶと思えども、
羽はうすものかくされぬ、
すきや明石に緋ぢりめん、
肌のしろさも浅ましや、
白い絹地の赤蜻蛉。
雪にもみじとあざむけど、
世間稲妻、目が光る。
あれあれ見たか、
あれ見たか。
「おじさん――その提灯……」
「ああ、提灯……」
唯今、午後二時半ごろ。
「私が持ちましょう、磴に打撞りますわ。」
一肩上に立った、その肩も裳も、嫋な三十ばかりの女房が、白い手を差向けた。
お米といって、これはそのおじさん、辻町糸七――の従姉で、一昨年世を去ったお京の娘で、土地に老鋪の塗師屋なにがしの妻女である。
撫でつけの水々しく利いた、おとなしい、静な円髷で、頸脚がすっきりしている。雪国の冬だけれども、天気は好し、小春日和だから、コオトも着ないで、着衣のお召で包むも惜しい、色の清く白いのが、片手に、お京――その母の墓へ手向ける、小菊の黄菊と白菊と、あれは侘しくて、こちこちと寂しいが、土地がら、今時はお定りの俗に称うる坊さん花、薊の軟いような樺紫の小鶏頭を、一束にして添えたのと、ちょっと色紙の二本たばねの線香、一銭蝋燭を添えて持った、片手を伸べて、「その提灯を」といったのである。
山門を仰いで見る、処々、壊え崩れて、草も尾花もむら生えの高い磴を登りかかった、お米の実家の檀那寺――仙晶寺というのである。が、燈籠寺といった方がこの大城下によく通る。