本文へ移動
TORENDIA

三鞭酒

本文約2,300字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

客足のまばらなホテルの食堂で、退屈を紛らわせたいと望む三人の仲間は、偶然隣席に座った中年のアメリカ人男女に目を留める。粗末な服の女と禿げた男という一見不釣り合いな二人が、大仰なほど親密に振る舞い、三鞭酒を注文して乾杯する様子を見て、仲間たちは彼らを恋人同士ではないかと推測する。二人の様子を観察するうちに、思いがけず男の口から愛の言葉が漏れ、観察者たちは戸惑いと滑稽さを感じる。

宮本百合子

速度
🎧 三鞭酒 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 4

土曜・日曜でないので、食堂は寧ろがらあきであった。我々のところから斜彼方に、一組英国人の家族が静に食事している。あと二三組隅々に散らばって見えるぎりだ。涼しい夏の夜を白服の給仕が、食器棚の鏡にメロンが映っている前に、閑散そうに佇んでいる。

「――寂しいわね、ホテルも、これでは」

「――第一、これが」

友達は、自分の前にある皿を眼で示した。

「ちっとも美味しくありゃしない。――滑稽だな、遙々第一公式で出かけて来て、こんなものを食べさせられるんじゃあ」

「食い辛棒落胆の光景かね」

「いやなひと!」

三人は、がらんとした広間の空気に遠慮して低く笑った。

「寂しくって、大きな声で笑いも出来ない。いやんなっちゃうな」

「まあそう云わずにいらっしゃい、今に何とかなるだろうから」

時刻が移るにつれ、人の数は殖えた。が、その晩はどういうものか、ひどくつまらない外国の商人風な男女ばかりであった。

「せめて、視覚でも満足させたいな。これはまあ、どうしたことだ」

「――お互よ、向うでも我々を見てそう云っているに違いないわ」

宮本百合子の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本