TRENDIA CLASSIC

よろこびの挨拶

宮本百合子

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人間が、人間らしく幸福に住むためには、どの位の空間がいるものでしょう。そして、その空間は、今日の社会の進歩と自然の条件とに対して、健全に人間を休ませ、活動させるためには、どんな備えをもっていなくてはならないものでしょうか。

大昔は穴居していた人間。それから城廓とそのぐるりの小舎に住んでいた人々。市民の家屋というものが、都市に出現するようになってから、われわれの文化史は重大な変化を経験しました。この変化につれて「家を建てる人」の社会における意味も一世紀ごとに推移しました。家を建てる仕事が「言葉なき家畜」である奴隷の労役によってされた時代から、有名な築城師があらわれました。ついで、芸術家としての名建築家が、王侯貴族たちの名声と権力と金の力とをつくしてその腕を発揮しました。近代社会の経済機構が基礎をかためてからは、資本が、建築のすべての条件を決定するようになりました。建築家は自身のどんな想像力を具体化することが出来たでしょう。資本が、その天性にしたがって強力無慈悲な計算をする、その計画に、どの程度のプロメシウス的な反抗をしたでしょうか。

例えば、ひところの住宅建築に、空間のぬけ目ない利用或は立体化ということが流行ったことがあります。昔シカゴ市で見学した一つのアパートメントの有様は、今もまざまざと目に残っています。ある一つのドアをノックしました。そのクリーム色に塗られた近代風のドアが開くと、その一間住宅であるアパートメントの瀟洒な布張のアーム・チェアに細君がかけて編物をしています。ドアを開けてくれたのはそこの主人でした。

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