TRENDIA CLASSIC

栗毛虫

長塚節

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風邪でも引いたかといふ鹽梅に頭がはつきりしないので一旦目は醒めたがまた寢込んでしまつた、恐らく眠りも不足であつたのらしい、みんなはもう野らへ出たのであらう家の内はまことにひツそりして居る、

霖雨つゞきの空は依然として曇つて居るが、いつもよりは稍明るいのであるから一日は降らないかも知れぬと思ひながらぼんやりと眺めて居つた、

「サブリだもの屹度後には雨だよ、どんな旱でも今日明日と降らなかつたことは無いのだから

と母はいつた、そんなことも有るものか知らんと自分は只聞き流した、この頃のやうに鬱陶しい時は頭が惡くなつて困る、することがみんな懶い、自分でもこれでは成らんと思つてもやつぱりぼんやりして居る、こんな時には隨分馬鹿々々しいこともやつて見ることがある、少し寒けがするので襯衣を着込む足袋を穿くして居るうちに栗毛虫でも叩き落してやらうと云ふ氣になつた、この栗毛虫といふのは栗の木へ付く虫なのであるが、門のはだかの木(百日紅)へも年々たかつてしやうがない、長さが三寸もあつて白く稍々青みを帶びた肌へ房々とした白毛を生じて居るのだから毛虫嫌のものには見た計でも心持がよくないだらうと思ふ、はだかの樹は自分がやつと覺えて居る頃植移したので、その頃でも珍らしい樹であつたのださうであるが、今では蘗でさへも立派な花を持つやうになつたのである、しかしこんな大きな毛虫に荒されるのであるから隨分枝が淋しくなつてしまふ、掃いても掃いても樹の下は毛虫の糞が眞黒である、どうしても叩き落して踏み潰してやらなければならない、

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