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TORENDIA

記憶のまゝ

本文約7,500字 ・ 読了時間 約16分

あらすじ(AIが作成しました)

故人である伊藤左千夫の生涯を振り返り、その矛盾に満ちた人間性と逸話の数々を綴る。強固な体格と蛮勇を持ちながら、極度の近視ゆえの滑稽さや、無邪気で小さな功名心を併せ持つ姿を描く。正岡子規を深く慕った根岸庵時代を美しく回想する一方で、後年の世俗的な名声への執着や、芸術家としての遅鈍さや傲慢さをも浮き彫りにする。本書は、時に周囲を当惑させながらも誠実な努力を続けた一人の文学者の複雑な側面を、思い出を通じて克明に描き出す。

長塚節

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故人には逸話が多かつた。數年間交際を繼續して居た人々は誰でも他の人には知られない、單に自分との間にのみ起つた或事實の二つや三つは持つて居ないことは無いであらう。それが大抵は語れば一座が皆どつと笑ひこけるやうなことのみに屬して居るらしい。一體故人の生涯は恐ろしい矛盾の生涯であつた。矛盾といふことは人生の常態であるにしても故人のは殊に甚だしいのである。あの何事にも理窟が立つて時としては其弊に墮する程滔々として自己の意見と[#「意見と」はママ]發表し、往々にして對手を感服させるといふよりも寧ろ威壓して畢ふといふ程の力を有して居たにも拘らず、其相貌の何處といふことなしに滑稽な分子を含んで居て、聰明な後進の人々からは何時でも竊に微笑を浴せ掛けられて居たらうと思はれるのである。それが非常に度の強い眼鏡を二つも掛けなければ能く見ることが出來ない程の近視眼から遂に物事に間が拔けて勢ひ滑稽の分子が附纒うたに相違ない。

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