化鳥
本文約17,700字 ・ 読了時間 約36分
あらすじ(AIが作成しました)
市外れの橋の番小屋で母と暮らす少年は、母から人間も鳥獣も等しく同じ生き物であると教え込まれる。その独特な世界観のもと、少年は行き交う人々を鳥獣のように客観視するようになるが、ある夜、自身の姿が鳥のように見えるという不可解な体験をする。本作は、母子の精神的な絆と、現実と幻想が混ざり合う境界で少年の内面が変容していく様を描く。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
💰 この本を応援する(投げ銭)
第一
愉快いな、愉快いな、お天気が悪くつて外へ出て遊べなくつても可や、笠を着て蓑を着て、雨の降るなかをびしよ/″\濡れながら、橋の上を渡つて行くのは猪だ。
菅笠を目深に冠つて※[#「さんずい+散」、U+6F75、39-4]に濡れまいと思つて向風に俯向いてるから顔も見えない、着て居る蓑の裾が引摺つて長いから脚も見えないで歩行いて行く、背の高さは五尺ばかりあらうかな、猪子しては大なものよ、大方猪ン中の王様が彼様三角形の冠を被て、市へ出て来て、而して、私の母様の橋の上を通るのであらう。
トかう思つて見て居ると愉快い、愉快い、愉快い。
寒い日の朝、雨の降つてる時、私の小さな時分、何日でしたつけ、窓から顔を出して見て居ました。
「母様、愉快いものが歩行いて行くよ。」
爾時母様は私の手袋を拵えて居て下すつて、
「さうかい、何が通りました。」
「あのウ猪。」
「さう。」といつて笑つて居らしやる。
「ありや猪だねえ、猪の王様だねえ。
母様。だつて、大いんだもの、そして三角形の冠を被て居ました。さうだけれども、王様だけれども、雨が降るからねえ、びしよぬれになつて、可哀想だつたよ。」
母様は顔をあげて、此方をお向きで、
「吹込みますから、お前も此方へおいで、そんなにして居ると衣服が濡れますよ。」
「戸を閉めやう、母様、ね、こゝん処の。」
「いゝえ、さうしてあけて置かないと、お客様が通つても橋銭を置いて行つてくれません。づるい[#「づるい」はママ]からね、引籠つて誰も見て居ないと、そゝくさ通抜けてしまひますもの。」
私は其時分は何にも知らないで居たけれども、母様と二人ぐらしは、この橋銭で立つて行つたので、一人前幾于宛取つて渡しました。
橋のあつたのは、市を少し離れた処で、堤防に松の木が並むで植はつて居て、橋の袂に榎の樹が一本、時雨榎とかいふのであつた。