TRENDIA CLASSIC

日本橋

泉鏡花

1 / 104

篠蟹  檜木笠  銀貨入  手に手  露地の細路  柳に銀の舞扇

河童御殿  栄螺と蛤  おなじく妻  横槊賦詩  羆の筒袖

縁日がえり  サの字千鳥  梅ヶ枝の手水鉢  口紅  一重桜

伐木丁々  空蝉  彩ある雲  鴛鴦  生理学教室  美挙  怨霊比羅

一口か一挺か  艸冠  河岸の浦島  頭を釘  露霜

彗星  綺麗な花  振向く処を  あわせかがみ  振袖

[#改ページ]

篠蟹

「お客に舐めさせるんだとよ。」

「何を。」

「その飴をよ。」

腕白ものの十ウ九ツ、十一二なのを頭に七八人。春の日永に生欠伸で鼻の下を伸している、四辻の飴屋の前に、押競饅頭で集った。手に手に紅だの、萌黄だの、紫だの、彩った螺貝の独楽。日本橋に手の届く、通一つの裏町ながら、撒水の跡も夢のように白く乾いて、薄い陽炎の立つ長閑さに、彩色した貝は一枚々々、甘い蜂、香しき蝶になって舞いそうなのに、ブンブンと唸るは虻よ、口々に喧しい。

この声に、清らな耳許、果敢なげな胸のあたりを飛廻られて、日向に悩む花がある。

盛の牡丹の妙齢ながら、島田髷の縺れに影が映す……肩揚を除ったばかりらしい、姿も大柄に見えるほど、荒い絣の、いささか身幅も広いのに、黒繻子の襟の掛った縞御召の一枚着、友染の前垂、同一で青い帯。緋鹿子の背負上した、それしゃと見えるが仇気ない娘風俗、つい近所か、日傘も翳さず、可愛い素足に台所穿を引掛けたのが、紅と浅黄で羽を彩る飴の鳥と、打切飴の紙袋を両の手に、お馴染の親仁の店。有りはしないが暖簾を潜りそうにして出た処を、捌いた褄も淀むまで、むらむらとその腕白共に寄って集られたものである。

「煮てかい、焼いてかい。」

「何、口からよ。」

と、老成た事を云って、中でも矮小が、鼻まで届きそうな舌を上舐にべろんと行る、こいつが一芸。

「まあ、可笑しい。」

若い妓は、優しく伏目に莞爾して、

「お客様が飴なんか。大概御酒をあがるんですもの。」

で、ちょっと紙袋を袖で抱く。

「それだってよ、それでもよ、髯へ押着けやがるじゃねえか。」

「不見手様。」とまた矮小が、舌をべろんと飜す。

若い妓は柔しかった。むっともしそうな頬はなお細って見えて、

泉鏡花の他の作品