TRENDIA CLASSIC

冬の海

宮本百合子

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あんまりはっきり晴れ渡らない空合で、風も静かに気にかからぬまでに吹いて居る。

丁度満潮時で、海面は白と藍のむら濃になってゆるやかに息をついて居る。

かなり久しい間、海に来ないで居たので、波の音が、脳の中の、きたないものを皆持って行って呉れるかと思われる様に、新らしく感じられる。

小田原の海ほど高い波がよせないので、つれて景色ものどやかで、見て居ても快い。

波面と、砂がまぼしくひかる上から、短かい、細かな「かげろう」がチラチラもえて居る。

向うの青々した山の裾まで、かるく、ゆれて、ホンノリとして見えるので、まるで初春の雲雀でも鳴いて居る時の様に思われる。

まだ三※[#小書き片仮名ガ、414-12]日がすまないので、漁船は皆浜に上って居て、胴の間に船じるしの「のぼり」と松が立ててあるその下で、「あさぎ地」に赤で、裾模様のある、あの漁師特有の「どてら」の様なブワッとしたものを着た、色のまっ黒な男が、「あみ」をつくろったり、立ち話しをしたりして居る。

いかにもお正月らしい。

正月の海辺は今年始めて見たのだけれ共、東京の町中等より眼先のかわった、単純な面白味がある。

漁師共の着て居るその「どてら」みたいなものと、船じるし、松飾りをした船とが、しっくりとつり合って、絵にでも書いて置きたい様に見える。

春先の様に水蒸気が多くないので、まるで水銀でもながす様に、テラテラした海面の輝きが自然に私の眼を細くさせる。

この海からの反射光線が、いつでも私の頭――眼玉の奥をいたくさせるのである。

此処いら――江の島、七里ヶ浜あたりの波は随分と低い。

それに、すぐ目の前に江の島の、あの安っぽい棧橋側が見えて、うすきたない石がけにごみがよせて見えるので、何となし俗っぽい。

あの江の島の貝細工店の女達の様に、いやみなところがどこかある。

けれ共、松のある出島の裾まで、白い波頭がゆるやかに見渡せて、ザザザザ――と云う響が、遠くから、次第に近く、よせて来て低い砂を□う波が、白い水泡をのこしては引いて行く様子は必して悪いはずもない。

江の島があるばっかりに、ここいらの品がすっかり落ちて仕舞った、惜しい事だ。

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