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TORENDIA

「平家物語」ぬきほ(言文一致訳)

本文約24,700字 ・ 読了時間 約50分

あらすじ(AIが作成しました)

高倉天皇は、宮中に仕える美しい上童の葵の前や、琴の名手である小督の殿に深く心を寄せる。天皇の寵愛を受ける女房たちは周囲の嫉妬や世間の目をはばかる立場に置かれ、天皇との関係に悩み苦しむ。権力者の圧力がかかる中で、禁中は静寂と悲しみに包まれる。本作は、天皇と女房たちの切ない恋模様と、それを取り巻く過酷な運命や宮中の人間模様を繊細に綴る。

宮本百合子訳

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葵の前

(高倉)

其の頃何より優美でやさしいことの例に云い出されて居たのは中宮の御所に仕えて居る局の女房達がめしつかわれて居た上童の中に葵の前と云って陛下の御側近う仕る事がある上童が居た。およびになるほどの御用がなくっても主上は常に御召になって居るので主の女房も召しつかう事が出来ずかえって主の女房が葵の前を御主人のようにもてなしていらっしゃった。昔のひなうたに「女を生んでも悲しんではならない。女は運よくさえあれば妃ともなれば又妃は后ともなると云う事がある。」かどうかわからないけれども此の御方はきっと末には女御后とも云われる様にも御なりになるだろうと内々、人のうわさをする時などには葵女御等と云って居た。主上はいつの間にか此の噂を御ききになってからは一寸も今までの様に御召にならなかった。是んな事のあったのはほんとうに御志のつきたのではなく、只、世の中のそしりを思召ての御心であった。御心のつきて遊ばされた事ではないので御心がさわやかでなく、御供なんかも一寸もめし上らずよくも御寝遊ばされないほどであった。その時摂の松殿が此の事を聞いて「さて、そんなに御考えるつみになるような事があるならば参内して御なぐさめ申さねばならない」と大急ぎで参内して申し上げるには「その様に御心までなやませ給うようになるまで世間をはばかって居らっしゃってはしようがございません。只今すぐその人を御召遊ばしませ。姓や素情を御さぐりになるにはおよびませんですから。やがて基房がよいようにとりはからいましょうから」と申し上げたらば主上は「位を退ってからはそのような事のあった例もたまにはきいて居たけれどもちゃんと位に居ながらそのような物を召された例はまだ一度もきいた事がない。それに私の御代に始めて始めたら後の世の笑草そしり草となるであろう」と仰せてお聞入にならない。関白殿も何ともしようがないので急いで車にのって御退出なってしまった。或る時主上が御手習の御ついでにみどりの薄様の香の香のことに深いのに故い歌ではあるけれ共このような時であったろうと思召されて、

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