つぼみ
本文約21,600字 ・ 読了時間 約44分
あらすじ(AIが作成しました)
肺を患い若くして亡くなった処女の死と、祭りの喧騒の中にある死への恐怖を描く。また、互いに深く信頼し合う男女の再会や、京都から来た無邪気な娘との交流を通じ、日常に潜む情感を綴る。さらに、テントウムシダマシをめぐる幼い日の記憶や、夏の夕暮れに黒蝶が舞う風景、星の輝きに寄せる想い、垣根の朝顔への視点など、日常の細やかな情景や詩的な思索を収める。
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処女の死と赤い提灯
まだ二十を二つ越したばかりの若い処女が死んだ、弱い体で長い間肺が悪かっただけその短い生涯も清いものだった。「お気の毒様な――この間はおくさんを今度は御嬢さんを――ほんとうに旦那様も御可哀そうな、さぞ御力おとしでいらっしゃるでしょう」人は皆んなこんな事を云って居る。家の中はそう云う時に有り勝な一種何とも云い様のない寂しさがみちて居るけれ共そのしずかな部屋のまどの外はもう気の狂った様なにぎやかさである。根津さんと白山さまの御祭り、この二つの人気をうきうきさせる事が重なった時に――若い男の頬が酒でうす赤くなり娘の頸が白くなった時にこの処女は死んで行った。冷たい気高い様な様子でねて居る処女の体の囲りにはいろんな下らない、いかにも人間の出しそうな音がみちて居る。部屋のすぐ後には馬鹿ばやしの舞台が立って居る。たるんだブロブロ声で笑いながら紙のあおる音の様なテカテカテカをやって居る男や、万燈をかついで走り廻って居る男やはそんな事は一寸も知らずに――又知って居てもすっかり忘れて狂いまわって居る。家並につるしてある赤い提灯の光、ひっきりなしにつづく下駄の音、笑い声かけ声がしずかな部屋の中におしよせて来るのを、中に居る人達は大変におそれる様に、どうにかしてふせぎたい様な気持でかたくなって頭っからおさえつけられて居る様な気のして居た。まどもしめ、戸もとじ処女の床のまわりには屏風も立ててなるたけその音の入り込まない様にとして居ても目に見えないすき間から入って来る。音や光りは今にもしずかにして居る処女の体をうごかせて目をつぶったまんま浮れ出させやしまいかと思われた。誰の頭の中にも斯うした思は満ちて居た、人達は時々のぞく様にその着物のはじをのぞいて、して置いたまんま一寸も動いて居ないのを見ては小さな溜息をつきながら安心して居た。テカテカテカテカ……処女がうす青い唇をふるわせる音の様に思われた。フラフラゆれまたたいて居る赤い灯、恋を知らずに逝った霊の色の様に見られた。