TRENDIA CLASSIC
無題
宮本百合子
1 / 7
河原蓬と云う歌めいた響や、邪宗の僧、摩利信乃法師等と云う、如何にも古めかしい呼名が、芥川氏一流の魅力を持って、私の想像を遠い幾百年かの昔に運び去ると同時に、私の心には、又何とも云えないほど、故国の薫りが高まって来た。
人から借りた新聞の小さい切抜きを両手に持って、私は何と云う熱心さで読んで行った事だろう!
遠い海を越えて送られて来た新聞は、「邪宗門」の僅か二三章を齎したに過ない。
けれども、私は、今殆ど歓喜に近い興奮で、「縦に並ぶ」自分の言葉を、此の懐かしい碁盤目の紙に書き付けて居る。
九月に家を出て以来、私の心の周囲に見えない壁を築いて、私の知って居る形容詞では充分に現わす事の出来ない程、微妙な、力強いぎごちなさを与えて居た感じは、今、まるで夢よりも淡く消えて仕舞った。
そして、今私は、急に捌口を与えられた水の熱情を以て話し出そうとして居るのである。
私の如何か成って居た心持に、此程の動揺を与えられたと云う点から、私はどの位、此の小さい僅かの紙切れに感謝する事だろう。従って、その感謝は、其を書かれた芥川氏にも、其を私の手にまで運んで来た総ての機会にも、当然捧げられるべきものであろう。
私は、此の歓びから満ち溢れる感謝を、今、誰に対しても、何に対しても惜もうとは思えない。芥川さんにも、海へも落さずよく運んで来た麻嚢にも、私は真心から有難を云う。真個に有難う……。
けれども、私は又、此の興奮の最中に在りながら、一体、何で自分が此那に、じっとして居られない程熱く成って居るかを考えずに居られない。
御覧なさい。私は今、真赤な顔をして居ます。頭の中じゅうが、ブンブンと廻るような気がして居ます。けれども、一体何が、真個に、何が此那に、自分を動かしたのだろう――。
宮本百合子の他の作品
TRENDIA CLASSIC
男…は疲れてい
る
宮本百合子
男…は疲れている
宮本百合子 ・ 約5分
TRENDIA CLASSIC
きょうの写真
宮本百合子
きょうの写真
宮本百合子 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
結婚相手の性行
を知る最善の方
法
宮本百合子
結婚相手の性行を知る最善の方法
宮本百合子 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
「現代百婦人録
」問合せに答え
て
宮本百合子
「現代百婦人録」問合せに答えて
宮本百合子 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
戦争・平和・曲
学阿世
宮本百合子
戦争・平和・曲学阿世
宮本百合子 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
ソヴェト「劇場
労働青年」
宮本百合子
ソヴェト「劇場労働青年」
宮本百合子 ・ 約5分
TRENDIA CLASSIC
婦人民主クラブ
について
宮本百合子
婦人民主クラブについて
宮本百合子 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
「愛怨峡」にお
ける映画的表現
の問題
宮本百合子
「愛怨峡」における映画的表現の問題
宮本百合子
TRENDIA CLASSIC
愛
宮本百合子
愛
宮本百合子
TRENDIA CLASSIC
「愛と死」
宮本百合子
「愛と死」
宮本百合子
TRENDIA CLASSIC
合図の旗
宮本百合子
合図の旗
宮本百合子
TRENDIA CLASSIC
愛と平和を理想
とする人間生活
宮本百合子
愛と平和を理想とする人間生活
宮本百合子