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TORENDIA

無題

本文約5,100字 ・ 読了時間 約11分

あらすじ(AIが作成しました)

ニューヨークで生活する著者が、芥川龍之介の小説の一部に触れ、故国への深い愛着と祖国を意識する自身の根源について綴る。異国の地で自身の魂に刻まれた日本人の意識と、戦争や国家という枠組みに翻弄されながらも平和を希求する人間としての苦悩を掘り下げ、すべての人間が同じ根源を持つという認識から、形式や伝統に縛られない生命の叡智を求める必要性を論じる。

宮本百合子

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🎧 無題 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

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河原蓬と云う歌めいた響や、邪宗の僧、摩利信乃法師等と云う、如何にも古めかしい呼名が、芥川氏一流の魅力を持って、私の想像を遠い幾百年かの昔に運び去ると同時に、私の心には、又何とも云えないほど、故国の薫りが高まって来た。

人から借りた新聞の小さい切抜きを両手に持って、私は何と云う熱心さで読んで行った事だろう!

遠い海を越えて送られて来た新聞は、「邪宗門」の僅か二三章を齎したに過ない。

けれども、私は、今殆ど歓喜に近い興奮で、「縦に並ぶ」自分の言葉を、此の懐かしい碁盤目の紙に書き付けて居る。

九月に家を出て以来、私の心の周囲に見えない壁を築いて、私の知って居る形容詞では充分に現わす事の出来ない程、微妙な、力強いぎごちなさを与えて居た感じは、今、まるで夢よりも淡く消えて仕舞った。

そして、今私は、急に捌口を与えられた水の熱情を以て話し出そうとして居るのである。

私の如何か成って居た心持に、此程の動揺を与えられたと云う点から、私はどの位、此の小さい僅かの紙切れに感謝する事だろう。従って、その感謝は、其を書かれた芥川氏にも、其を私の手にまで運んで来た総ての機会にも、当然捧げられるべきものであろう。

私は、此の歓びから満ち溢れる感謝を、今、誰に対しても、何に対しても惜もうとは思えない。芥川さんにも、海へも落さずよく運んで来た麻嚢にも、私は真心から有難を云う。真個に有難う……。

けれども、私は又、此の興奮の最中に在りながら、一体、何で自分が此那に、じっとして居られない程熱く成って居るかを考えずに居られない。

御覧なさい。私は今、真赤な顔をして居ます。頭の中じゅうが、ブンブンと廻るような気がして居ます。けれども、一体何が、真個に、何が此那に、自分を動かしたのだろう――。

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