獄中への手紙
本文約227,700字 ・ 読了時間 約456分
あらすじ(AIが作成しました)
巣鴨拘置所に収監された夫の顕治へ宛てた、一月三日の書簡。年始の家族や知人との交流、正月の様子、身の回りの出来事などを綴る。また、今後の執筆計画や、夫婦の生活感覚、時代を生きる姿勢について論じる。戦時下の制限ある生活の中で、日常を慈しみながら、自身の芸術的創造に向き合う決意を書き留めた随筆である。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一月三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
一月三日 第一信
私たちの九年目の年がはじまります、おめでとう。割合寒さのゆるやかなお正月ね。あの羽織紐していらっしゃるのでしょう? 明日は、あの色によく調和する色のコートを着ておめにかかりに出かけます。
三十一日は吉例どおり、家で寿江子と三人で夕飯をたべそれから壺井さんのところへお恭ちゃんもつれて出かけました。壺井さんのところでは大きい大きい茶ダンスをでんと茶の間にすえて、その下に御主人公、おかみさん、小豆島から出て来ている大きい方の妹さん、それから小さい妹さんの上の息子がかたまって、おもちを切っているところでした。それにマアちゃんと。
喋っていて、十時すぎたら、玄関の格子がガラガラとあいて「はっちゃんだヨ」と、小さい妹さん、仁平治さん、赤ちゃんの一隊が、やって来ました。小豆島の姉さんに会うために。大した同勢でしょう?
井汲卓一氏が理研の重役で、支満へ旅行して天然痘になったということで皆びっくりしてさわいで(手も足も出ず)種痘したりしたという年の暮です。熊ケ谷の農学校の英語の先生一家は二日に種痘をしようということで、私は余り人員超過になったから、引上げて稲ちゃんのところへゆきました。
稲ちゃんは三十日の夜十時すぎ蓼科からかえって来た由。買物からかえったばかりとコート着て長火鉢のところにいます、眼をクシャクシャに細めているの、痛いと。何だろう、この夏の私のようなのかしらと思ったら、考えた末、白い雪の反射をうけすぎていると判断しました。ひろいところに雪が白皚々でしょう? それを白い障子のたった明るい室で見て、白い紙の字をよんだり書いたりする毎日だもの! ほんとにめくらになります、リンゴのすったのでひやすことを教えました。