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TORENDIA

漱石さんのロンドンにおけるエピソード

本文約4,600字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

著者である土井晩翠が、夏目漱石のロンドン留学中に発生した病気や、自身が漱石から抱かれていたという「奸策を弄して失脚を企てた」とする誤解について綴る。漱石が抱いたという疑念に対し、当時留学中であった自身の立場や状況を回顧し、事実関係を正すべく弁明する一文。亡き漱石の天才ゆえの猜疑心に対し敬意を払いつつも、無実の汚名をそそぐために過去の経緯を冷静に論じる。

土井晩翠

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🎧 漱石さんのロンドンにおけるエピソード / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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夏目夫人、――「改造」の正月号を読んで私が此一文を書かずには居れぬ理由は自然に明かになると思ひます、どうぞ終まで虚心坦懐に御読み下さい。

漱石さんが東京帝国大学英文学の卒業生で私共の先輩であつたことは曰ふ迄もありません。『英国詩人の天地山川に対する観念』などを『哲学雑誌』で田舎書生が驚嘆の目に読んだのは三十余年の昔です。そして此渇仰の大家の風貌に初めて接したのは『塩釜街道に白菊植ゑて何を聞く聞く、ソリヤ便りきく』の名邑を去る一里余、あやめが浦の海水浴場地の一ホテルに於てでした。『夏目君が……館に来てゐる、先輩に対する礼としてでも往訪するんだが同伴しないか』と私を誘うて下すつたのは同じく英文科の先輩(目下二高の教頭)玉虫一郎一さんでした、同郷の秀才で後同じく英文科に学んだが惜いかな中途で斃れた秀才渡辺芳治君も亦同伴されたと記憶します。『天風海濤』と誰やらの書いた額のある室で、初めて受けた印象は寡言で厳粛な、奥深さうな学者と曰ふに過ぎません、何等の委細のお話を承る機会なしに直ぐ其ホテルをお去りになつたからであります。

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