小さな旅
本文約2,500字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
五月の五日から三日間にわたり、向嶋の姉の家を訪れた作者が過ごす穏やかな日常を綴る。車夫の良さんに引かれ、車窓から移り変わる街の情景を眺めながら辿り着く。滞在中、姉や妹、友人たちとの団欒の中で句作に耽り、庭に躑躅を植え、何気ない朝の光や庭の生き物の息遣いに心を寄せる。別れの日、帰路の途中で念願の青蘆の群生を目にした作者は、旅の充足感とともに家路につき、静かな余韻の中で日々を記録する。
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五月六日
今宵は向嶋の姉に招かれて泊りがてら遊びに行くのである。
おさえ切れぬ嬉しさにそゝられて、日毎見馴れている玻璃窓外の躑躅でさえ、此の記念すべき日の喜びを句に纒めよと暗示するかのように見える。
母は良さんを連れて来た、良さんと云うのは此の旅を果させて呉れる――私にとっては汽車汽船よりも大切な車夫である。
俥は曳き出された。足でつッぱることの出来ぬ身体は揺られるがまゝに動く。
私の俥は充分に外景を貪り得るように[#「貪り得るように」は底本では「貧り得るように」]、能うだけの徐行を続けているのだが、矢張り車夫として洗練されている良さんの足は後へ後へと行人を置きざりにして行くのである。
やがて見覚えのある交番の前を過ぎた。道は既に紅燈紘歌の巷に近づいたのである。煙草屋の角や駄菓子屋の軒などに、江戸家とか松葉とか云うような粋な軒燈が点いている。それは煙草屋や、駄菓子屋の屋号ではなくて、それらの家々の路地奥にある待合や芸妓家の門標であることに気のついた頃はそうした軒燈を幾つとなく見て過ぎた。
旨そうな油の香を四辺に漂わしながらジウジウと音をさせている天ぷら屋の店頭に立っている[#「立っている」は底本では「立つている」]半玉のすんなりした姿はこの上もなく明るいものに見られた。
この町のこうした情調に酔いつゝある間に俥は姉の家へ這入るべき路地口へついた。蝶のように袂をひらめかしながら飛んで来た小娘が「随分待ってたのよ」と云う、それは妹であった。
家に入ると、姉は私を待ちあぐんで、既に独酌の盃を重ねているのだった。私も早速盃を受けて何杯かを傾けた。
俳句などには何の理解も持たぬ姉ながら妹に命じて椽の障子を開けさせたり、窓を開かせたりして私を喜ばしてくれるのは身にしみて嬉しかった。
三坪ほどしかない庭の僅か許りの立木ではあるが、昨年来た時の親しみを再び味わしてくれるのに充分である。昨日植木屋を入れて植えさせたと云う薪のような松が五六本隅の方に押し並んで居るのも何となく心を惹く。手水桶を吊り下げてある軒端の八ツ手は去年来た時よりも伸び太って、そのつやつやしい葉表には美しい灯影が流れている。