此の書を祖國のひとびとにおくる
なんぢはなんぢの面に汗して生くべし
人間の勝利
人間はみな苦んでゐる
何がそんなに君達をくるしめるのか
しつかりしろ
人間の強さにあれ
人間の強さに生きろ
くるしいか
くるしめ
それがわれわれを立派にする
みろ山頂の松の古木を
その梢が烈風を切つてゐるところを
その音の痛痛しさ
その音が人間を力づける
人間の肉に喰ひいるその音のいみじさ
何が君達をくるしめるのか
自分も斯うしてくるしんでゐるのだ
くるしみを喜べ
人間の強さに立て
耻辱を知れ
そして倒れる時がきたらば
ほほゑんでたふれろ
人間の強さをみせて倒れろ
一切をありのままにじつと凝視めて
大木のやうに倒れろ
これでもか
これでもかと
重いくるしみ
重いのが何であるか
息絶えるとも否と言へ
頑固であれ
それでこそ人間だ
自序
自分は人間である。故に此等の詩はいふまでもなく人間の詩である。
自分は人間の力を信ずる。力! 此の信念の表現されたものが此等の詩である。
自分は此等の詩の作者である。作者として此等の詩のことをおもへば其處には憂鬱にして意地惡き暴風雨ののちに起るあの高いさつぱりした黎明の蒼天をあふぐにひとしい感覺が烈しくも鋭く研がれる。實にそれこそ生みのくるしみであつた。
生みのくるしみ! 此のくるしみから自分は新たに日に日にうまれる。伸び出る。此のくるしみは其上、強い大膽なプロメトイスの力を自分に指ざした。遠い世界のはてまで手をさしのべて創世以來、人間といふ人間の辛棒づよくも探し求めてゐたものは何であつたか。自分はそれを知つた。おお此のよろこび! 自分はそれをひつ掴んだ。どんなことがあつても、もうはなしてやるものか。
苦痛は美である! そして力は! 力の子どもばかりが藝術で、詩である。
或る日、自分は癲癇的發作のために打倒された。それは一昨々年の初冬落葉の頃であつた。而もその翌朝の自分はおそろしい一種の靜穩を肉心にみながら既に、はや以前の自分ではなかつた。
それほど自分の苦悶は精神上の殘酷な事件であつた。
此等の詩は爾後つい最近、突然咯血して病床に横はつたまでの足掛け三ヶ年間に渉る自分のまづしい收穫で且つ蘇生した人間の靈魂のさけびである。