或る淫売婦におくる詩
本文約1,000字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
夜の街角で過酷な境遇に身を置き、人々の罪と苦しみを一身に背負ってきた淫売婦。作者は、彼らの欲望の犠牲となり、孤独と屈辱の中で耐え忍んだ彼女を聖母のような崇高さを持つ存在として称える。泥濘の中に咲く地獄の白百合のごとき彼女の献身的な生を讃え、人々のために身を捧げたその痛ましい魂と、大地へ還ろうとする姿を慈しみと畏敬の念を込めて描写する。彼女の忍耐が世界を浄化したと説き、その尊い魂を静かに悼む詩を収める。
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女よ おんみは此の世のはてに立っている おんみの道はつきている おんみはそれをしっている いまこそおんみはその美しかった肉体を大地にかえす時だ 静かにその目をとじて一切を忘れねばならぬ おんみはいま何を考えているか おんみの無智の尊とさよ おんみのくるしみ それが世界の苦みであると知れ ああそのくるしみによって人間は赦される おんみは人間を救った おんみもそれですくわれた どんなことでもおんみをおもえばなんでもなくなる おんみが夜夜うす暗い街角に餓えつかれて子猫のようにたたずんでいた時 それをみて石を投げつけたものは誰か あの野獣のような人達をなぐさむるために 年頃のその芳醇な肉体を ああ何の憎しみもなく人人のするがままにまかせた 歯を喰いしばった刹那の淫楽 此の忍耐は立派である 何というきよらかな霊魂をおんみはもつのか おんみは彼等の罪によって汚れない 彼等を憐め その罪によっておんみを苦め その罪によっておんみを滅ぼす 彼等はそれとも知らないのだ 彼等はおのが手を洗うことすら知らないのだ 泥濘の中にて彼等のためにやさしくひらいた花のおんみ どんなことでもつぶさに見たおんみ うつくしいことみにくいこと おんみはすべてをしりつくした おんみの仕事はもう何一つ残っていない 晴晴とした心をおもち 自由であれ 寛大であれ ひとしれずながしたなみだによって みよ神神しいまで澄んだその瞳 聖母摩利亜のような崇高さ おんみは光りかがやいているようだ おんみの前では自分の頭はおのずから垂れる ああ地獄のゆりよ おんみの行為は此の世をきよめた おんみは人間の重荷をひとりで背負い 人人のかわりをつとめた それだのに捨てられたのだ ああ正しい いたましい地獄の白百合 猫よ おんみはこれから何処へ行こうとするのか おんみの道はつきている おんみの肉体は腐りはじめた 大地よ 自分はなんにも言わない 此の接吻を真実のためにうけてくれ ああ何でもしっている大地 そして女よ 曾て彼等の讚美のまっただ中に立ちながら ひとときのやすらかさもなかった おんみを蛆虫はいま待っているのだ あらゆるものに永遠の生をあたえ あらゆるものをきよむる大地 此の大地を信ぜよ 人間の犠牲としておんみは死んでくださるか 自分はおんみを拝んでいる 彼等はなんにもしらないのだ わかりましたか そして吾等の骨肉よ いま一どこちらを向いて おんみのあとにのこる世界をよくみておくれ (『感情』一九一七年九月号に「或る淫売婦におくる」と題して発表 一九六一年十二月弥生書房刊『山村暮鳥全集』第一巻を底本)
完