五月のある晴れた土曜日の夕方[#ルビの「がた」は底本では「かた」]だつた。いつになく元※[#「气<丿」、U+6C15、24-1-2]のいい、明るい顏付で勤め先から帰つて※[#「未」の「二」に代えて「三」、24-1-3]たM会社員の青木さんは、山の手のある靜かな裏通りにある我家の門口をはひると、今まで胸に包んでゐたうれしさを一時に吐き出すやうにはしやいだ声で奧さんの名を呼んだ。と奧さんはびつくりした様子で小赱りにそこへ迎へ出て※[#「未」の「二」に代えて「三」、24-1-11]た。
「お帰んなさい。――いつたいまあ何なの? いきなりそんな大きな声をなすつて……」
さうたづねかけながら、奧さんは女学生らしさのまだ十分にぬけきらない若々しいひとみを青木さんに投げかけた。
「いゝ事、素適な事があるんだよ。」
さう答へて玄関にあがると、機嫌[#ルビの「きげん」は底本では「きけん」]のいい時にするいつもの癖で、青木さんは小柄[#ルビの「がら」は底本では「から」]な奧さんの體を軽く引き寄せながら、そのくちびるに短い接ぷんを與へた。
「まあ、何んでせう?」
奧さんはたくましい青木さんの肩に片手をかけたまゝこびるやうにその顏を見上げた。
「うむ、あれさ。あれをとうとう今日受けとつて※[#「未」の「二」に代えて「三」、24-2-15]たんだよ。」
「あれつて?」
「ほら、あれさ。」
「ああ、わかつた。うれしいわね。――どんな番号だつて?」
「それがさ、馬によささうな番号なんだよ。――ちよつとお待ち……」
さういひながら、玄関つゞきの茶の間へはひると、青木さんは紙にくるんだ額面十円の△△債劵を背広[#ルビの「せびろ」は底本では「せひろ」]の内がくしから、如何にも大事さうに取出した。
「これなんだよ。――ほらね。ちの一万二千三百七十五号、何だかいゝ番号だらう?」
「ちの一万二千三百七十五号、さうね、ほんとにいゝ番号だわ。」
奧さんは晴れ晴[#ルビの「ば」は底本では「は」]れしくひとみを輝かしながら、暫らくその額面に眺め入つてゐた。
「何だかあたりさうね。」