十六日
本文約4,300字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
盆の十六日に休みを得た鉱夫の嘉吉と妻のおみちは、穏やかな一日を過ごしていた。そこへ化石を探す一人の学生が訪れ、二人は食事を振る舞う。学生が去った後、おみちの表情を見た嘉吉は嫉妬心から激昂し、妻を罵倒して膳を蹴飛ばす。しかし、すぐに自分の言動を後悔した嘉吉は、妻に冗談であったと取り繕い、学生を追いかけて今夜の踊りに誘う悪戯を提案する。おみちはその提案に驚きながらも笑い、二人は再び食事を共にする。
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よく晴れて前の谷川もいつもとまるでちがって楽しくごろごろ鳴った。盆の十六日なので鉱山も休んで給料は呉れ畑の仕事も一段落ついて今日こそ一日そこらの木やとうもろこしを吹く風も家のなかの煙に射す青い光の棒もみんな二人のものだった。
おみちは朝から畑にあるもので食べられるものを集めていろいろに取り合せてみた。嘉吉は朝いつもの時刻に眼をさましてから寝そべったまま煙草を二、三服ふかしてまたすうすう眠ってしまった。
この一年に二日しかない恐らくは太陽からも許されそうな休みの日を外では鳥が針のように啼き日光がしんしんと降った。嘉吉がもうひる近いからと起されたのはもう十一時近くであった。
おみちは餅の三いろ、あんのと枝豆をすってくるんだのと汁のとを拵えてしまって膳の支度もして待っていた。嘉吉は楊子をくわいて峠へのみちをよこぎって川におりて行った。それは白と鼠いろの縞のある大理石で上流に家のないそのきれいな流れがざあざあ云ったりごぼごぼ湧いたりした。嘉吉はすぐ川下に見える鉱山の方を見た。鉱山も今日はひっそりして鉄索もうごいていず青ぞらにうすくけむっていた。嘉吉はせいせいしてそれでもまだどこかに溶けない熱いかたまりがあるように思いながら小屋へ帰って来た。嘉吉は鉱山の坑木の係りではもう頭株だった。それに前は小林区の現場監督もしていたので木のことではいちばん明るかった。そして冬撰鉱へ来ていたこの村の娘のおみちと出来てからとうとうその一本調子で親たちを納得させておみちを貰ってしまった。親たちは鉱山から少し離れてはいたけれどもじぶんの栗の畑もわずかの山林もくっついているいまのところに小屋をたててやった。そしておみちはそのわずかの畑に玉蜀黍や枝豆やささげも植えたけれども大抵は嘉吉を出してやってから実家へ手伝いに行った。そうしてまだ子供がなく三年経った。
嘉吉は小屋へ入った。
(お前さま今夜ほうのきさ仏さん拝みさ行ぐべ。)おみちが膳の上に豆の餅の皿を置きながら云った。(うん、うな行っただがら今年ぁいいだなぃがべが。)嘉吉が云った。