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TORENDIA

花の話

本文約14,900字 ・ 読了時間 約30分

あらすじ(AIが作成しました)

神事に用いられた花や杖の信仰について論じる。かつて山人は村へ来訪する際、枝のついた杖を立て、それが根付くことで村の農業の豊穣を祝福した。この杖は稲の花の象徴であり、先触れを意味する「花」として扱われた。また、門に木を立てたり、魂を留めるために行われる「はやし」という動作など、各地の伝承や万葉集の歌を紐解きながら、木の花や植物を用いた呪術的な儀式や占いの意味を解き明かす。

折口信夫

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一

茲には主として、神事に使はれた花の事を概括して、話して見たいと思ふ。

平安朝中頃の歌の主題になつて居た歌枕の中に、特に、非常な興味を持たれたものは、東国の歌枕である。

東国のものは、異国趣味を附帯して、特別に歌人等の歓迎を受けた。其が未だに吾々の間に勢力を持つて居る。譬へば関東には「迯げ水」の実在が信ぜられて居た。それは、先へ行けば行く程、水が逃げて行くと考へられて居たものである。又「入間言葉」なども、大分後になつて、歌枕に這入つて来た。其は、人の言葉を何でも反対に言ふと信ぜられて居るものである。「ほりかねの井」など言ふものも、後になつて出来た。下野には「室の八島」がある。此類のものは他にも沢山ある。旅行者が、旅路の見聞談を敷衍して話した為に、都の人々は非常な興味を持つて居た。「常陸帯」の由来も其一つである。総じて東国のものは、奥州に跨つて、異国趣味を唆る事が強かつた。

そんな事の中に、錦木を門に樹てることがある。里の男が、懸想した女の家の門へ錦木を切つて来て樹てるのである。美しい女の家の門には、村の若者によつて、沢山の錦木が樹てられる。どれが誰のか、判断はどうしてつけるのか訣らぬが、女が其中から、自分の気に入つた男の束を取り入れる。其は、女が承諾した事を示す。此は、平安朝の末頃、陸奥の結婚にはかう言ふ話があつた、と言ふ諸国噺の一つとして、語り伝へられて、歌枕になつたのであるが、よく考へて見ると、さう言ふ事でないのかも知れぬ。

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