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TORENDIA

九代目団十郎の首

本文約2,000字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

九代目市川団十郎は明治時代の文明開化をその肉体に体現し、世代の標式とも呼ぶべき唯一無二の存在であった。著者は少年時代から憧れ続けたこの巨人の姿を彫刻として昇華させるべく、自身の記憶と観察を頼りに制作を試みる。本作は、世上に散見される既存の像への違和感を指摘しつつ、団十郎の顔立ちが持つ特異な大きさや、隈取のために生まれたような肉体の特徴、そして舞台上の凄みを彫刻家の視点から精緻に描き出し、芸術的な写実への苦闘を綴る。

高村光太郎

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九代目市川団十郎は明治三十六年九月、六十六歳で死んだ。丁度幕末からかけて明治興隆期の文明開化時代を通過し、国運第二の発展期たる日露戦争直前に生を終ったわけである。彼は俳優という職業柄、明治文化の総和をその肉体で示していた。もうあんな顔は無い。之がほんとのところである。明治文化という事からいえば、西園寺公の様な方にも同じ事がいえるけれど、肉体を素材とせらるる方でない上に、現代の教養があまねく深くその風に浸潤しているので、早く世を去って現代の風にあたる事なく終った団十郎よりは複雑である。団十郎はこの点純粋の明治の顔を持っていて、女でいえば洗髪のおつまのような其の世代の標式といえるのである。五代目菊五郎についても素より団十郎と同じ事が言えるわけであるが、菊五郎の方は余りに多く俳優であり過ぎて、その現われ方がむしろ旧幕の延長として意味があり、当代の文化一般を肉体化していたような趣のある包摂的な団十郎に比べるといささか世代の標式とはなし難い。

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