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TORENDIA

東京湾怪物譚

本文約2,700字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

東京湾口は、餌が豊富で潮の流れが活発な魚の楽園である。ここには黒鯛や鱸といった小物のほか、漁師を驚かす巨大な鮫や、伝説的な巨亀が棲息する。また、かつてアシカが群れをなして遊泳し、大鱸を空中に放り投げて捕食する奇観も見られた。本書は、こうした東京湾口に伝わる怪異や大物たちにまつわる数々の話を紹介し、厳しい自然と向き合う漁師たちの暮らしや、開発によって姿を消した生物たちの営みを綴る。

佐藤垢石

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🎧 東京湾怪物譚 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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一

観音崎と富津岬とが相抱いた東京湾口は、魚の楽園らしい。どんな魚でもゐる。それは餌が豊富であるのと、潮の流れが生きてゐるためであると思ふ。

浦賀港から二三里三浦半島の突端の方へ寄つた下浦などは、黒鯛の避寒地だとされてゐる。夏の間、江戸前や横浜附近の海で遊んでゐた黒鯛は、晩秋から初冬になるとぞろ/\揃つて下浦へ避寒にでかける。なか/\しやれてゐるぢやないか。といふのは、下浦といふところの海水は、夏の間冷い潮が流れてゐて、冬になると温かい潮が廻つて来るためなのである。そこの黒鯛は、冬でも餌を食つてゐるから円々と背の肉が厚い。

黒鯛や鱸などの小物は別として、東京湾口には凄いやうな大物も遊びに来たり居付いたりするのである。

二

鱶、つまり鮫の四五百貫もある奴が時々やつて来ては漁師を驚かす。鱶は悪食で何でも食ふ。殊に人間の肉は好きのやうである。大鱶を見たらこれにからかつちや損だ。釣つた魚の二三尾も投げてやつて這々の体で逃げ帰るに限る。だが、勇敢な漁師もゐるものだ。浦賀港から東へ約一里ばかり行つた鴨居といふ漁村に、丸茂英太郎君といふ四十二三歳の漁師がゐるがこの人が二三年前素晴らしい大物を捕つた。

英太郎君が大鯛釣をやつてゐると、鱶が舟へ襲ひ掛つて来た。一呑みといふ形相であつた。英太郎君は覚悟した。だが、無抵抗で食はれてしまふのも残念だと思つて、舟の舳の方を見ると折よくモリがあつたので、これを右手に奮ひ起つて舷に足をかけ、鱶の頭へ打つ徹して手綱を艫にかけ、その儘発動機を鳴らして港へ帰つて来たのである。港内へ入ればこつちのものだ。大勢の漁師連中が集つて来て、十数本のモリを打込んだから大鱶も遂に最期を遂げた。

目方にかけたら二百八十貫あつたさうである。

三

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