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TORENDIA

我が生活

本文約4,500字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

同棲していた女に別の男のもとへ去られた語り手は、深い喪失感と口惜しさに苛まれながら、自己統一を失い混迷する日々を綴る。東京という孤独な大都会の中で受験勉強も手につかず、人嫌いになりながらも必死に生を求める著者の精神状態と、当時の生活環境を詳細に振り返る。本作は、愛する者を失った絶望と、精神的な危うさを抱えた近代人の内面風景を克明に描き出す、私小説的な形式をとった精神の記録である。

中原中也

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🎧 我が生活 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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私はほんとに馬鹿だつたのかもしれない。私の女を私から奪略した男の所へ、女が行くといふ日、実は私もその日家を変へたのだが、自分の荷物だけ運送屋に渡してしまふと、女の荷物の片附けを手助けしてやり、おまけに車に載せがたいワレ物の女一人で持ちきれない分を、私の敵の男が借りて待つてゐる家まで届けてやつたりした。尤も、その男が私の親しい友であつたことゝ、私がその夕行かなければならなかつた停車場までの途中に、女の行く新しき男の家があつたことゝは、何かのために附けたして言つて置かう。

私は恰度、その女に退屈してゐた時ではあつたし、といふよりもその女は男に何の夢想も仕事もさせないたちの女なので、大変困惑してゐた時なので、私は女が去つて行くのを内心喜びともしたのだつたが、いよいよ去ると決つた日以来、もう猛烈に悲しくなつた。

もう十一月も終り頃だつたが、私が女の新しき家の玄関に例のワレ物の包みを置いた時、新しき男は茶色のドテラを着て、極端に俯いて次の間で新聞を読んでゐた。私が直ぐに引返さうとすると、女が少し遊んでゆけといふし、それに続いて新しき男が、一寸上れよと云ふから、私は上つたのであつた。

それから私は何を云つたかよくは覚えてゐないが、兎も角新しき男に皮肉めいたことを喋舌つたことを覚えてゐる。すると女が私に目配せするのであつた、まるでまだ私の女であるかのやうに。すると私はムラムラするのだつた、何故といつて、――それではどうして、私を棄てる必要があつたのだ?

私はさよならを云つて、冷えた靴を穿いた。まだ移つて来たばかしの家なので、玄関には電球がなかつた。私はその暗い玄関で、靴を穿いたのを覚えてゐる。次の間の光を肩にうけて、女だけが、私を見送りに出てゐた。

靴を穿き終ると私は黙つて硝子張の格子戸を開た。空に、冴え冴えとした月と雲とが見えた。慌ててゐたので少ししか開かなかつた格子戸を、からだを横にして出る時に、女の顔が見えた。と、その時、私はさも悪漢らしい微笑をつくつてみせたことを思ひ出す。

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